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第三十五話 院長


  


「ではどんな保証で安心するのか聞かせて貰おう」


 ルーシュ様の方も良い笑顔で言い切った。負けてない。院長と対等にやり合っているというかむしろ余裕なのかな? 分家の分家の更に分家の分家とかわざわざ繰り返しているし。シリル様はシリル様で吹き出す寸前みたいな感じで、笑いを堪え過ぎて震えている。


「貴方は五月蠅い婆さんだなと思っている事でしょう。ですが私は私なりに五月蠅い婆さんになる必要があってなっているのです。今回貴方に話す内容は話す相手を間違えてしまえば、一人の子供が不幸になる。ですから再三確認するのです。ですが確認し過ぎても相手を不愉快にさせ、差し伸べられた手を引かせてしまうかもしれない。私は私なりの修羅場を越えているのです。あなたの所作を見れば高貴な方であると分かります。そしてその緋色の髪と瞳。魔力素養も高いのでしょう。私も若い頃は王都の聖職者を育てる学園に通っていました。魔法士の方は何度もお見掛けしました。そして少ないですが友人もいます。その友人に今回の話を通してもらいました。彼が魔法省のどの部署に配属されているかは知りません。ですが、彼が貴方たちを選んで手配してくれたのなら信用しているつもりです。だから最後の確認をしているところです。私には権力と身分がありません。欲しいと思った事もなかったのですが、それでは大切な何かを守れない事もあるのです。なので権力を持っている人に繋ぎを取りたかった。とても困った事態が起こっているからです。ところで二人の部下も紹介下さい」


 ルーシュ様は院長の長い話に耳を傾けていた。御友人とは誰なのだろう? この二人を派遣したなら、結構上の人だと思うのだか……。


「シリル」


 ルーシュ様に呼ばれ、シリル様が院長に向き直る。自分で自己紹介をするのかな? どうやってするのだろう? 本当の事は言えないし、でも嘘というのも言いにくい状況だけど……。


「シリル・エースです。エース家の分家の分家のそのまた分家くらいの親類です。父はエース一族の中で仕事をしていますが爵位はありません。便宜上エースと名乗っていますが正確にはシリルと名だけになります。そういう意味ではあなたの求める権力は有りませんが、一族は一族。魔法素養も持っています。魔法省六課の一官吏になりますが、一般の方よりは裕福な育ちと言えるでしょうか。あなたの力になれればと思っております」


 最後以外は全部嘘?? ですよね? たぶん全然悪気がないやつ。というか王太子だなんていえないのでどうしょうもないというレベルだ。しかも分家の分家のそのまた分家とは? 気に入ったんですね。その言い回し。


 そうこうしている内に、私の番だ。何と言えば? エース家の侍女なのだが流石にそんな事を素直に言ってしまえば、相手が訝しがる。しかも三人ともエース家縁だと、なんとなくくどい気もするし。兎に角六課所属らしいのでそこはそれしかない。


「ロレッタ・シトリーです。魔法省六課所属の魔法士です。孤児院の味方です。ご安心下さい」


 院長は私を見ながら首を捻る。


「……シトリー? 聞いたことありません」


 ですよね!


「失礼ですがお父様の爵位は?」

「……父は伯爵位になります」

「……シトリー伯爵……やはりまったく聞いたことがありません。伯爵位でそこまで無名な家なのですか?」


 なんと答えれば? 無名な上に貧乏でもあったりする。しかし、そこを言えばますます不安にさせてしまいかねない。ぶっちゃけ権力も金もない。


「彼女はセイヤーズ侯爵の姪にあたる。決して身分は低くない。頼りがいがあると思うが?」


 ルーシュ様が助け船を出してくれる。ああ……アレですか? シトリー伯爵の娘より、自己紹介時はセイヤーズ侯爵の姪と。そう名乗るのが賢明なんですね!


「……ローランド様の姪?」

「え?」

「……いえ」


 伯父を知っていらっしゃる?


「ロレッタさん、その眼鏡は視力矯正用ですか?」


院長が矛先を変えてきたので、私も深追いしなかった。

 数瞬考えて私は眼鏡を取った方が良いのではないかと判断する。なんせ二人も眼鏡を掛けているのだ。ちょっと割合が高い。それに言える事は言いたい。


「いえ、シリル魔法士の眼鏡は視力矯正用ですが、私のは色変化用のものです。内緒だったのですが、院長にだけご覧に入れましょう」


 そう言って、眼鏡を取って微笑んだ。

 空色の瞳が露わになる。


「……セイヤーズの名とその瞳の色。ロレッタさんは水の魔導師だったのですね」

「そうです。仕事の関係上、眼鏡を着けていましたが、本来は水の魔導師なんです」


 そう言って、私は手元に小さな水を召喚する。重力に逆らって空中に浮いた球状の水というのはなかなか特別な存在なのだ。







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