第三十三話 依頼主
シリル様は良い答えだねと言って笑った。
良い答えなんだ………。
と言う事は、シリル様もルーシュ様も依頼主は神官系と考えているという事だろうか……。ならば公爵家は抜ける。そもそも公爵家の人間が、王家直轄の孤児院に寄付に行く貴族令嬢を傷つけるとは考えにくい。王家に弓引く事になるのだから……。いや、アクランド王国に居を構えた人間が、王家に弓引く事自体有り得ないのだが、そんな中でも公爵家は王家の外にいるものではなく中にいる者だ。彼らは彼らの血筋に誇りを持っているし、王家筋の者なのだから、それこそ慰問していてもおかしくない。神官に絞って考えると、いよいよ片手の数だ。
灰色の瞳というのは、所謂魔法素養の有る者が与えられる色ではない。人間の瞳は一般的に緑、青、灰、ヘーゼル、薄茶、濃茶となる訳だが。この内、緑と青は風の魔術師と水の魔術師と被りそうに思えるが、明確には違いがある。風は黄緑で水は銀のようなブルーで比べれば分かる。ただ…同系色なので近いは近い。そして闇は紫で土は黒だ。濃茶と黒も似た印象を持つが、じっくり見ると全く違う。何処まで行っても深い黒色という瞳は魔術師にしか存在しない。
絞り込みをするのであれば、薄茶、濃茶、が一番多いので、絞りにくい色だ。そして次に青とヘーゼル。私は聖女科なので、神官の顔はこの中で一番分かるのではないかと思う。アッシュの瞳の色をした神官………。思い浮かべれば、そう多くはない。
その中でも一番に思い浮かべる人と言ったら――
ガタンと音がして、馬車が止まった。
そう言えば、御者と馬はまったく傷つけられなかったな……。御者は従順に馬車を止めたからだろうし、馬は……無傷で欲しかったのかな……。金目のものは全部欲しい的な事を言っていたものね?
ルーシュ様の「着いたぞ」という言葉を受けて、私も焼き菓子の入ったバスケットを持ち上げる。襲撃の後でも焼き菓子は無傷でした。それがなんだかとても嬉しい。子供達にこの甘いほのかな幸せを渡せるのだから。








