第三十話 お喋りの心。
「それにしても大変におしゃべりな盗賊でしたね……」
喋る事喋る事。盗賊のリーダーというものが、あんなにぺらぺらぺらぺら舌が回る種族だと思わなかった。しかもノンストップ待ったなしだ。
「ロレッタは盗賊が何であんなに喋るか知っている?」
「何故でしょうか? 今日初めて知った知識です……」
シリル様は盗賊がお喋りだった理由を教えてくれるらしい。というか……明確な理由があるものなんですね? そういう意味でも驚きました。
「まずは、依頼を受けて失敗してしまったという場合、依頼主は接点のあった部分、窓口になっていたリーダーかサブリーダーかもしくは槍の特攻担当だった男。つまりはそれなりの地位にいた者にはいち早く死んで欲しい。もちろん足が着くからなんだけど。だから殺されない為にも知っている情報は全部綺麗に喋る必要があった。だから依頼主に関する情報は最優先で早口で伝えた。そして二つ目。印を押される事が絶対に嫌だった。印さえ押されなければ、自分は自分のまま、人格も思考も感情も保てるからね。人格矯正印というのは、こちらに理想的で従順な人格を組んで流す訳だから、彼は彼ではなくなる。もちろん命に別状はないけどね。自分という人格は消滅する。それが恐怖だったんだろうね。だからそういう意味でも発動前に僕らが欲しがっている情報は全部喋った。そして三つ目の理由。彼らにイデオロギーがないって事。腕っ節が強かったから、盗賊になって、人から物を奪い、傷つけて自由に生きて行く道を選んだ。特に社会思想がある訳じゃない。社会思想――つまり他人から教義を植え付けられた人間は、その教義の為なら他人が死んでも自分が死んでもなんとも思わない。だから捕まっても拷問されても口は割らない。自分の命よりも教義が大切だからね。盗賊にはそういったものはない。捕まった以上、どれだけ条件良く捕まるか。もしくは逃げるか……。だから黙っている必要なんてまったくなかった。もしもそういった輩で黙っているなら、プライドとかそういうものなんだろうけど、力の世界だからね。自分より圧倒的な戦闘力の前にはあっさり折れる傾向に有る。これが四番目の理由。力で敵わないと認めたという事」
………なるほど。だからあんなにもぺらぺらぺらぺら喋ったと。理にかなってるな……と私はしみじみ思う。一番盗賊に言われたくなかった情報と言えば、灰色の瞳の依頼者と聖魔導師と聖魔法の執行だろうなと思う。かなり絞れるというか……。
年配の聖魔導師であり女性。
潜りの聖魔導師でもない限り、侯爵家、公爵家、王家に教会と絞られるし。その上、王都周辺で活動する盗賊に依頼となると……。
何故間に人を挟まなかったのかと思わなくもないが……要は金だ。報酬が金で済むなら、人を挟んでも問題ない。でも報酬が聖魔法って……なんで? と思わなくもないが、つまり単純に金がないのだろう。潜りの聖魔導師として金を稼いで払えば良いのにとも考えるが……聖魔法に金を払える人間はそもそも貴族やら豪商で金持ち。あっさり身分が割れるかも知れない。








