第二十七話 教えて下さいⅢ
ところで、なんで私は颯爽と馬車から降りるのでしょうか?
足を挫きかける……という締まらないアクシデントはあったが、バレていないと信じて、魔法省の制服を颯爽と靡かせて馬車から降りる。小柄なので全然足が届かなかった。ある意味吃驚した。ルーシュ様やシリル様がエスコートしてくれていたので気付かなかったというのもあるし(もちろん、主人と侍女ではなく、小柄な同僚に手を貸すという自然な状況作りとして?) 他のこと主に盗賊に気を取られていて、馬車のステップの事など思い出しもしなかったという事もある。迂闊だった。
降りたところで何をすれば良いのか微妙に分からない状態なのだが、そうはいってもおろおろするというのも違うのだろう。なんと言っても制服を靡かせるという指定が入ったのだ。つまり格好良く振る舞え、威厳を持って振る舞え。ということだろう。私に威厳なんて持ち合わせはないが、それは中身だ。外見じゃ分からない筈。
衛兵がキビキビと動く中、私は髪がチリチリの盗賊二人の前にいるルーシュ様とシリル様の元に向かう。二人のいる場所に着くと、彼らが左右に割れたので、失礼して間に入った。
ルーシュ様は盗賊から目を離さず、シリル様だけがチラリと私を確認する。
そしてシリル様が口を開いた。
「人格矯正印と奴隷契約印の構築に入ってくれる?」
シリル様に指示され私はこくりと頷く。
頷いたは良いが、言葉の意味がやっと理解出来る程度なのですが……。
人格矯正印と奴隷契約印………。
凄く物騒な名前の印。今まで教科書レベルでしか聞いたことがない名の魔法だ。
分かる訳ないのですけども???
という話だ。
だがしかし、私は今、闇の魔術師。
闇の魔術師というのは印の魔導師だ。
ココ・ミドルトンに姦通罪の印と国外追放の印を押したのも当然闇の魔導師。
そういうのが得意な専門の魔術師を闇の魔導師と呼ぶ。
呼ぶ。もちろんそう呼ぶ。
だがしかし――
私は闇の魔導師ではなく、水と光の魔導師だ。
人格矯正印とやらと、奴隷契約の印を作れと言われても当然だが作れない。
だが、どう考えても作れませんけども? という場面ではない。
空気が読めない私にだって、それくらいは辛うじて読める。
ああ……――
ここはどうするのが正解?
はったりで光の魔法陣を出すのが正解?
でも当たり前だが、光というのは闇と対極にあり、ちょっと神々しいとうか、温かい雰囲気というか、良い感じの波動の印で禍々しさが微塵もない。
魔法陣に詳しくない者でも、人格矯正印や奴隷契約の印じゃないことくらい分かりそうではないか……。
聖魔法の印ははったりにならないだろう……。
きっと不正解。どうしても印が必要な時は水でいこう。
でも……私の専門は光の魔術であり、水は独学。正直大きな魔法は打てない。小者感が出てしまう可能性がある。
内心でじわりと嫌な汗をかく。
ただ、外面はニコリともせず仏頂面だ。
あまり感情が表に出るタイプじゃなくて良かった……。
シリル様だって、私が聖魔法と水魔法しか打てない事は百も承知。
それでも話を振ったのだから、光の魔法陣を出す事も、水の魔法陣を出すことも不正解かも知れない………。
ならば、魔法ではなく……フリで? 行く??
「……では、人格矯正印から構築を開始します」
そう言って、両手を体の前で組み、体内に魔力を流して水魔法の中で一番大きな魔法の形成に入った。私の髪がブワッと風を受けた様に靡く。滅多にしない事だがゆっくりと詠唱でもしようかと思った矢先、二人の盗賊の絶叫が響き、何でも言う、何でも聞いてくれ――という悲痛な声が辺りに木霊した。








