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第二十六話 教えて下さいⅡ


 馬車は抵抗する間もなく急停止し、数十の騎馬に囲まれた。


 窓に近づかないように言われ、屈んでいると、窓を槍が突き破る。大きな音が響き、私は隣に座っていたシリル様に庇われた。凄い、問答無用に殺しに来たのか脅しに来たのか分からないが、初動の攻撃で心が怯みそうになる。 


 馬車のドアが乱暴にこじ開けられそうになったところを、ルーシュ様が逆にドアを蹴り飛ばして、賊を落とし、そのまま賊を踏みつけにする勢いで飛び降りる。意外に武闘派なんですね……。その後を、シリル様は優雅に降りて行った。しかも後ろ手でドアまで閉める丁寧さ。どんな時でも品行方正なんですね……。

 魔法省の制服を着た二人の魔導師を目にした時、賊が一瞬目配せし合ったのが見えた。それはそうだ。中にいたのは品行方正な貴族ではない、一騎当千の魔導師だ。賢明な賊なら逃げる。暗愚なら戦うだろうか?


「馬から降りて武器を捨てろ。言う通りにしなければ3秒後に手を燃やす。骨まで焼き尽くす高温で行くから覚悟を決めておけ」


 馬車内でへたり込んでいた私は、おずおずと窓枠に近づく。もちろん外からは見えないように、伏せながら目だけで外の様子を窺う。シリル様には窓に近づくなと言われていたが、敵から見えなければギリギリグレーラインだろう。

 だって気になるじゃないか? 状況から考えて、シリル様はこの襲撃を知っていたのだ。もちろんルーシュ様も。何故なら気になる事とやらの案件を持っていたのはルーシュ様張本人だし、シリル様は今、魔法省に在籍している。省内でかエース家でかは知らないが、二人は情報を共有していた。だから、私に髪飾りを取るように言ったのだ。なぜ、馬車から降りる前に着けるかは分からないが、その方が都合が良い何かがあるのだろう。もちろん私は言われた通りにするつもりだ。何故に情報を共有してくれなかったかと考えれば、多分魔法省の機密なのだろうし、自分は使用人なのだから当たり前という所に落ち着いた。

 だがしかし、成り行きは見たい……。


 ルーシュ様、シリル様の前には十数人のいかにも盗賊といった出で立ちの荒くれ者達が取り囲んでいる。 武器を捨てろと言われて捨てるだろうか? 普通は捨てない。捕まったら牢行きだろうし、おいそれとは出られない。


 案の定、槍を持った一人の賊が馬を反転させようとした瞬間、両腕が燃え上がり落馬しながら地面を転がる。火を消そうとしているのだろうが、ルーシュ様の火は通常の炎ではないので消えない。


「 消してくれ!!」

「はあ? 何言ってんだ? 今まで命乞いする貴族をその手に掛けてきたんだろ?」

「……そんな事は……。武器を捨て大人しく金を寄越せば、命は取ってない」

「……ならばお前も武器を捨てれば良かったんじゃないか? 最初にそう言ったよな?」

「今はもう捨てた。大人しく投降する。だから消してくれ」

「じゃあ、お仲間にもそう伝えろ」

「………おい、馬から降りて武器を捨てろ」


 そもそもがそんな助言を聞くような輩ではなさそうだが……。

 やはり目配せをしていた。逃げる? 戦う? どうする? といったところだろうか?

 逃げるとしても機は作らなければいけない。武器は高価なものだし、それが無くなれば稼業が傾く? しかし捨てなければ燃える。燃えるのは嫌だ。じゃあどうする? 魔導師と戦う? 相手は二人? まともにやっても敵わないが、虚を突けば勝機はある?


 などと頭の中で猛速に考えている事だろう。私なら投降一択だ。魔導師二人を相手取って勝てる気がしない。でも盗賊の頭の中身は分からない。そもそも盗賊は頭脳派ではないから盗賊な訳だし。彼らの恐ろしい所は、ルールや常識が通用しない暴力的な所だ。暴力で人の金を盗む。暴力で上下を決める。暴力で言うことを聞かせる。教会とは違う種類の治外法権。


 そうこうしている内に当たり前だが三秒経った。皆燃える事を選択したのだなと思った瞬間、世界から光が消えた。闇の中を蒼い稲妻が走る。ロレッタの網膜に光の粒子が映ったと同時に耳を劈く程の落雷の轟音。恐怖から目を瞑り耳を塞いだ。背筋に戦慄が走る。


 雷の魔術が構築されたのだ。

 その余りにも大規模な威力に思考も体の動きも止まった。

 

 闇が明け、世界に光が戻ると、そこには盗賊達が気を失って転がっていた。

 彼らは燃えるのではなく稲妻に打たれたのだ。



 ずっと大きな魔法が展開している気配がしていたが、雷の魔法陣だったんだな……と。


 討ち洩らしなのか、気絶を避ける為なのか分からないが、盗賊二人の髪の毛が燃えていた。髪は……とてもよく燃える。そして先程の手を燃やされて転がり回っていた人の火は消えていた。火傷はしていたが、見た目よりも軽傷に見える。脅しだったのかな?



 落雷によって気絶した人は、後から来た衛兵が一人一人縛って護送用の馬車に詰め込んでいく。そして髪がチリチリに燃えた人は、リーダーのようで残された。多分リーダーとサブリーダーだろう。二人とも髪がチリチリ方面ということは態と雷ではなく炎で追い込んだと考えた方が辻褄が合う。


 予期されていた襲撃なら、離れて衛兵や護送馬車が着いて来ていたのには頷けるが、私が出るタイミングはいつだろうか? まさかタイミングを逸した??


 そうは言っても出なくてはいけない。そういう打ち合わせだ。私は小箱から髪替え用の魔道具のリングを取り出すと、髪を薄紫色に変えて、颯爽と馬車から降りようとして、足が地面に全然届かない事に気が付いた。ステップがない。どうすれば? 数瞬考えてジャンプした。足首がグギとなり嫌な予感がしたので、こっそり聖魔法で治して、制服を靡かせる。


「……闇の魔術師!?」


 髪がチリチリの盗賊が私の姿を確認すると、目を見開き瞠目した。

 その数瞬後、彼らはガタガタと震え出す。

 え? 過剰反応?? 私を見て? 

 人生十七年目を迎えたところ。

 恐怖で震えられたのは初めてです。

 何故、荒くれ者の不届き者が私を見てそこまで震える?


 両手両足を縛られ、その上、自由に立てないように、手足を繋ぐように紐が回されていた。そんな紐を見ながら、ルーシュ様だったら一発で燃やせそうな拘束だな……とぼんやり考えていた。


 ところで、なんで私は颯爽と馬車から出るんでしょうか? その点だけは繋がっていません……。  






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― 新着の感想 ―
目の前の雷と轟音で馬車の馬がおとなしくしているのが不思議。暴れ馬確定案件
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