第二十四話 精通する分野
ロレッタのやるべき事は、炎の魔導師が魔術を顕現させやすくするために大気を管理する事。つまりは戦いやすい環境を作る事だ。それは考え方が非常にシンプルで分かりやすい。炎を避けながら、水魔法を放つより、余程役に立つ。
これで盗賊に襲われた時に、『出来るだけ遠くに離れてろ!』という事態に陥らなくなる。活路を見出せて本当に良かった。
ルーシュ様と目が合うとドヤ顔でニコニコしてしまった。いや……ドヤ顔は前のめり過ぎただろうか? 実際の所、まだ何も起きていない。
「ロレッタ?」
「?」
反属性のルーシュ様にドヤ顔をしていたら、属性相性の良いシリル様に話しかけられる。
「今、ニヤニヤしてなかった?」
「………」
自覚的にはニコニコでも、実際はニヤニヤなんですね!
客観とは大切です。
「雷が何故ジグザグの軌道で落ちるか知っている?」
確かに、激しい雨の中、空からジグザクになって落ちてくる。
普通に考えれば何かにぶつかって進路を曲げているのだろうか?
「雨の粒にぶつかりながら落ちてくる訳だ」
「?」
そうなんですか?
なんで知っているんですか?
雷の魔導師だけが知っている感覚としか思えない。
稲妻はまだまだ謎が多く、人間が理解出来ない事だらけなのだ。
でも…それは人体にもいえる。人体はブラックボックスで分からない事だらけ。聖女は一瞬痛覚、人間が痛みを感じる感覚を鈍らせる事があるのだが、この一つの行程を取っても、とても難しい。一人一人感覚というものは違うのだ。
人の体の反応が一人一人違うという事は、薬の量が違うという事だ。男性であるとか女性であるとか、老人であるとか子供であるとか。そういう部分でも違うのだが、それだけではない。
生まれ持っての体質の違い。これはもう聖女を悩ませる一番の種とも言える。
なぜならば薬は諸刃の剣。薬であり毒なのだから。聖女は万能と思われがちだが、そんなことはまったくない。実は失敗も存在する。
それはどの魔導師でも一緒だ。炎でも雷でも光でも闇でも。炎だって少し間違えれば自分の手が火傷をする事だってある。雷だって誤って自分の手が痺れた事は一度や二度ではないはず?
その中でも、比較的間違いが許されない魔導師が光と闇だ。人体に直接魔法執行を行うからだ。今でも他人に聖魔法を掛ける時は、刹那の躊躇いがあるし、緊張もする。そういえば中等部の時は、自分の体を使って、良く聖魔法の実験をしてたっけ……。あまり褒められた事ではないのだが、でも他人に掛けるものを、自分は全く受けた事がないとなると、少し不安になるのだ。
聖魔法の底辺概念は、今よりも悪くするな。
痛みの緩和もそうだけど、強くかけ過ぎて後々痺れが残ったりしたら、今よりも悪い。だから、最悪の最悪になるのなら、施行するなとさえ言われる。
どんな時に言われるかというと。
治し方を知らない時。
魔法式が解けない時。
こんな時は、消極的治療。緩和治療などが勧められる。
聖女は人体に精通しているが、やっぱり雷の魔導師は雷に精通しているのだろうとほんのり思う。
一週間お休みいたします!
次の投稿は来週の土曜日になる予定です。








