第二十一話 反属性
私はシリル様を見た後、ルーシュ様に視線を移す。二人は特に会話はしていない。ならば話し出すタイミングとしては今が適切ではないだろうか……。
「あの……ルーシュ様、シリル様、相談したい事があるのですが、今、大丈夫でしょうか?」
「相談??」
シリル様は私の言葉を繰り返した後、嬉々として頷き、ルーシュ様は平常通りに頷く。それを受けて私は話し出す。
「……実は私は、色々と物思いに耽るのが趣味というか癖と言いますか、取り留めのないことをつらつら考える事が良くあります」
「知ってる」
ルーシュ様が呆れたように頷く。
私の癖はバレていましたか?
「それでですね……『隣国に亡命して流しの聖女をする』などかなり具体的な想像というか想定というか妄想のテーマのようなものがありまして……。その一つに『ルーシュ様と一緒に馬車に乗っていたら盗賊に襲われる』というのがございます」
「…………」
「…………」
ルーシュ様とシリル様は一瞬顔を見合わせた。
「?」
何故今のタイミングで視線を交わしたのだろう。
ちょっと不自然だと思う。
しかし、少し待ったが返答がなかったので、私は話を続けた。
「それでですね。このテーマでの妄想は何度も何度も繰り返しているのですが、課題がありまして。つまり上手くいかない場所と言いますか、私の理想の立ち回りを演じるのに足りない力があるのです。まずは御者を射られた時です。私には馬を自由自在に操る力がないのです。経験もありません。そこで休日に御者の技術を教えてくれる学校に通いたいという事と、護衛学です。これは侍女として欠かせない力だと思うんです。主人を守る力ですね。理想を言えば『ここは私に任せて、お逃げ下さい』と主人に告げて、自分は悪党に高らかに名を名乗り、足止めをしたいと。それこそ使える侍女ではないでしょうか? だから護衛も学びたいのです。そして最後に反属性について。炎と水を上手く融合させて、有利に戦う方法が知りたい。反属性でも、共に戦える方法を知っている人がいる筈です。それを教わりたいのです」
私は思っていた事を、一気に口にした。
今、正にその状態なのだ。
つまり気が気じゃ無い。
王都観光であるならば、盗賊に襲われるという可能性は低い。
王城と城下など安全で近い道のりだからだ。
でも何か――
ちょっと郊外にある孤児院に向かっているようなのだ。
以前にルーシュ様に孤児院に行きたいとお願いした。
そして手元にはエース家の料理人が作ってくれた焼き菓子が大量に入ったバスケットがある。
そしてルーシュ様は制服で現れた。
つまり、孤児院から上がってきた気になる報告を確認するのだろう。
シリル様も一緒に。
雷の魔導師のシリル様。ただ今は風の魔導師を装うのだそうだが。
ちなみに私は闇の魔導師を装うらしい。もちろん闇魔法は打てないが……。
属性が違うので魔法式を覚えても起動させることが出来ないのだ。
故に覚えなくて良いと思っていたのだが、こういったフェイク捜査の時などに使えるとは気付かなかった。見掛けだけでは直ぐに看破されてしまう。やはり文言もそれらしくした方が良いだろう。帰ったら十個くらい覚えよう。一番汎用性の高いものに絞ろう。
魔法省の仕事の一部を垣間見る事が許されたのだ。とても嬉しい。いかにも社会人という感じだ。ルーシュ様の侍女として助手をするのも良いかもしれない。準官吏として籍だけ置いて貰おうか? いやエース家の侍女なのだから、籍を置くのは良くない。どちらも準になってしまったら終身雇用ではなくなってしまう。あくまで侍女としてお手伝いだ。
しかし、見かけはともかくとして、魔法を放てば一発でバレる。シリル様は雷の魔導師で私は水の魔導師だ。多分。聖魔法でも戦えない事もないのだが、戦闘向きではない。例えば賊の体内細胞の回復速度促進とかをすると回復過剰酔いの状態異常になる。結構敵としては堪えそうだが、同時に二人となるとどうだろう? 想像したこともなかったが、ヒールのように全対象に使える気もして来た。
味方に掛からないよう対象の固定が重要かも知れない。戦法として確立しておいた方が良いだろうか? しかしどうやって? 自分で試す? 一度自分に掛けて、どんな具体的症状が出るのかを観察したい。吐き気や目眩の強さ等。そうすれば自ずと戦い方が分かってくる筈。
後は、植物でも行けるだろうか……。
小麦とか??
小麦はどうなんだろう?
小麦の状態異常??
あまり害がなさそうな気がする。
そもそも小麦が状態異常になっても……。
エース家の花壇の一部、人目につかない所に小麦が実っていたらどうなのだろう? 少し考えて、それはあまり雅ではないと却下する。
学園の聖女畑の小麦で実験するのが、一番無難だろうか?
なんとなくそこに落ち着いた。
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