第十六話 酔い止めポーション
「シリル様、ちょっと顔色が悪くないですか?」
私は横目でちらちら見て様子を窺う。
「……別にまったく悪くない……」
「……いや、まったくって」
明らかに気分が悪そうだ。
私は下げていた鞄から小箱を取り出す。
毒消しや、消毒、痛み止め等、軽度の症状に効くポーションが入っている。
「人間の体は、耳で平衡感覚、目で状況、それを踏まえて体の姿勢を決めているのです。ですから、進行方向と逆に進むと目からの情報に違和感を感じ、体が緊張状態に入ります。これによって神経が乱れて吐き気などの症状が出ると言われています。ですから――」
私は、小瓶の中で水色の液体が瞬いているポーションを取り出す。
「その部分の誤作動を緩和させるF級ポーションです。そんなに強い効き目はありませんが、少しは楽になる筈です。飲んで下さい」
「……いや、王太子たるもの、馬車酔いで貴重なポーションを飲むという訳には……」
「私が聖女科の畑から採取した薬草で作りました。全然貴重じゃありません。学園の聖女科に行けばいつでも作れます」
「………」
「必要な魔力も微々たるものです。躊躇するような高価な品ではありませんよ?」
「そうは言っても……」
私は迷わず小瓶の蓋を開けた。
「さあ、飲みましょう。開けてしまいましたから、飲まないと品質が落ちてしまいます」
「………」
ポーションは開けた瞬間、水色の光を発して、小さく明滅する。
封じていた魔法効果が発現し始めている合図。
シリル様の口元に小瓶を寄せると、シリル様は私の瞳をじっと覗き込む。
「……では、ロレッタが口移しで……」
「え?」
今、口移しって言った??
もちろん、有事の際というか、相手が気を失っていたり、それが必要な生死の境にある時は、そういった選択肢もあるのだが、今ってその場面だろうか?
「口移しですか?」
「……そう」
「それ程、悪化していらっしゃる?」
「………」
王族に口移しは不敬にならないだろうか……。
もちろん有事の際は、迷ってなんかいられないが……。
今ってそういう時?
口移しというのは、飲ませる方の判断で行われるのではないかと思う。
飲まされる方が希望を出すというのは、どういった場面なのだろう。
「酔い止めのポーションを口移しで飲まれる事を、希望しているという事で良いのでしょうか?」
シリル様は黙って頷く。
私は違和感があったので三度確認した。
ちょっと再三確認し過ぎだろうか?
しかし、馬車に酔った人間を酔ったままほっとくなど、聖女の風上にも置けない。
ここは一つ、シリル様の希望にそう形にしよう。
「――では、失礼します」
そう、断りを入れてポーションを仰ぐようにして、口に含もうとした所で、ルーシュ様に小瓶を奪われた。
そして間髪を入れず、シリル様の口に瓶ごと注がれてた。
ちゃんと液体がシリル様の口元から体内に流し込まれている。
おおっ。
早業です!
ルーシュ様。








