第十四話 男爵令息と侍女。
私はシリル様が用意してくれたお仕着せに着替えていた。
動きやすくて軽い。エース家のお仕着せも品が良くて大好きだが、この男爵令息の侍女という肩書きのお仕着せも可愛い。くるりと回りたくなる仕様だ。
「……実はロレッタ」
「なんでしょうか?」
「僕は卒業記念パーティーに参加する予定でいたんだよね?」
「そうなのですか?」
「そうそう。でも急な仕事が入ってしまって……非常に残念だが参加できなかったという訳だ」
「……なるほど」
「その時に、君にダンスを申し込もうと思っていたのだよ」
「…………え?」
まさか自分にダンスを申し込んでくれようとしていたなんて驚きだ。
ちなみに私のダンスは上手くも下手でもない。中途半端な…というか至って普通という出来だ。何で踊れるかというと一応伯爵令嬢だから。どうして上達しなかったかというと貧乏だから? だと思う。
しかし、卒業記念パーティー直前三ヶ月で猛特訓した。婚約者である第二王子殿下と踊る予定でいたからだ。そのまま結婚する流れだった………。今考えるとなんでそんな運命だったのだろう? 全然好きでもない人と政略結婚。理由は第二聖女だから……。
もし彼と結婚していたら、どんな人生が待っていたのだろう? 浮気されるなど日常茶飯事。側妃はどれくらいいたのだろう? 王太子ではないから、側妃を沢山持つ必要などないので、ただの愛妾かもしれない。子供の数はきっと二桁。私は最初から最後まで呼ばれる事も無く、王宮の片隅で朽ちていくのだろう。
王宮の片隅で忘れられるというのは、そんなに悪くは無い。
彼に会わずに済むのだから。自由だし?
「それでね?」
「……はい」
「一曲踊らない?」
「え?」
シリル様、今なんて言った?
「僕と一曲踊らない?」
「??」
「ここで」
「??」
「踊ろうよ?」
「??」
戸惑って立ち尽くす私の手を引き、シリル様はエスコートする。
イヤイヤイヤイヤ、曲は??
シリル様がパチンと指を鳴らすと、ヴァイオリンを持った侍従が現れた。
嘘! 待機してた!? もの凄くスムーズに出てきた。
シリル様の手がそっと腰に当てられる。
私はドレスではなくお仕着せだ。
いったい自分たちは何をしているのだろう。
「ね、練習だと思って一曲踊ろう」
耳元にシリル様の口元が近づいて囁く。
いやでも。
私は困惑していた。
あれよあれよとダンスをしそうになっている自分と。
魔法省の制服を着て、入って来たルーシュ様の姿に。
制服!?
何故、王都観光に制服!
制服を着ているという事は、仕事だという事だ。
緊急の仕事が入った? でもその割には急いでいない。
ということは――
ルーシュ様はヴァイオリンを止めさせると、何事もなかったように声を掛ける。
「早く着替えて来い」
「?」
つまりは魔法省の仕事だが、魔法省に出勤する訳ではないという事。
音楽が止まったので、シリル様も足を止めてルーシュ様を見ていた。
「つまりは、聖女の制服ですね!」
私はシリル様の手を離し自室に駆け出した。
多少、はしたなかったでしょうか?
急ぎだ。
シリル様は膝を突いて絶望していた。
すみません! 主の命令です! ダンスは後日!
そんなシリル様に、お前も着替えてこいとルーシュ様は淡々と告げていた。
昨日、ルーシュ様が着ていた神官服ですね! きっとお似合いです!








