第十三話 色見本を作ってみました。
記念すべき第一ページはシリル様の髪見本になりました!
何か大変に特別感があって嬉しい。
綺麗な黄色の髪を貼れば、それだけで白いノートが映える。
二ページ目は、ルーシュ様の為に取っておいて、三ページ目に自分の髪の毛を貼った。
三ページ目からまったく特別感のない仕様になってしまった。
自分の髪って……。見慣れすぎていて新鮮味がない。
しかも自分の髪を貼った所で、ノートの地の色は黒の方が、色味がよく見えたかもと小さな後悔をする。いやいやいや。大丈夫。やってしまった事を後悔しても何も始まらない。私の髪が、例え白い紙に同化して見えないとしてもあまり気にしない。
それから、シリル様とわいわい言いながら、色見本を仕上げていった。シリル様はとても卒が無いというか、要領が良いというか、度胸が良いというか、全てを兼ね備えているのかも知れないが、メイドや従者、侍従に副侍女長に副執事とエース家の離れにいる者殆どに声を掛けてくれて、色見本が大分増えた。
私一人ならそんなことは出来ない。
せいぜい目を皿にして床を見ながら歩くくらいの事しか出来ない。
使用人の色見本もとても大切だ。何故なら仕上がりとして参考になるから。自然な風合いの髪色に近づける事が出来るかもしれない。
ノートに髪を貼りながら、シリル様と色の配分など話し合っていたのだが、彼は王太子殿下とは思えない気さくさというか……。以前に一緒に永久如雨露に付いて話し合った事があるのだが、とても頼りになる研究者だ。魔法科もこんなに色について勉強しているのだろうか?
手を止めてシリル様を何気なく見ていたら、小さく笑顔を返してくれた。私はあまり表情がなく、冷たいと言われてしまう事があるから、こんな風に柔らかく笑える人に憧れてしまう。
「シリル様はエース家の親族の方とは思えない程、屈託がなくって、お話がしやすいです」
「そう良かった。その肩書きは二人の時はいらないよ?」
「そうですか?」
「まあ、バレバレだしね」
会ったその日からバレていたのだが、でもきっとそういう肩書きだから、あまり私の方も畏まらなくて済んだのかも知れない。今も彼は王太子殿下といよりはルーシュ様の親戚のシリル様というイメージだし。
「これからも、シリル様とお呼びすれば良いですか?」
「うん。それでお願い。これから何度も何度もお忍びで色々な所に行くかもしれないからね」
「何度もですか?」
「そう、何度も。お忍びではシリルという名を使うから、便利だし間違えないし」
「なるほど……」
でも……。エース家の侍女と王太子殿下がお忍びで何度も色々な所に行くとは?
ルーシュ様とそういうお約束をしていて、付き添いは私がという事だろうか?
一応水の魔導師だし……。火を打ち消してしまうが……。打ち消す……早急に伯父様に相談して、炎の魔導師と共に戦うコツとか、護衛の仕方とかを教えて頂きたい。セイヤーズ家のタウンハウスにも折を見て行こう。
「ルーシュはまだ寝ているの?」
「……はい。まだ起こさないようにと言われています」
ルーシュ様は割と朝は遅い。夜遅くまで起きているからだろうか?
王太子であるシリル様を待たせて寝ているというのも、いかがな状況なのだろうと思うが、そういう事が許される関係なのだろうと思う。つまり、仲が良いのだろう。
私達が色見本を作っている間に、父と母はとっくに王都観光に旅立った。シリル様の乗って来た馬車で……。あの二人はおもしろいくらい遠慮がない。もう一台出す予定なのだと話したら、じゃあお若い者はそちらで――となってしまった。
それ王家が用意した馬車なんですけどとも思ったが、当のシリル様はニコニコ手を振って見送ったので、私には何も言うことが出来なかった。遠い目をして父と母に手を振った。あの二人、慰謝料の一部で散財するのではないだろうか? 不安だ。ちゃんと領地の借金に充てて欲しい。結構な額があったから、これで借金を全て返済し、領地経営に身を入れて欲しい。そして私も貧乏伯爵令嬢は返上だ。
「……シリル様、馬車は良かったのですか?」
「大丈夫、エース家の馬車でうろうろするから」
「……そうなのですね」
「ロレッタはビーズ屋以外に行きたい所ってあるの?」
本当に綺麗さっぱりバレている。
洞察力が高いのか、頭が良いのか、多分両方。
「はい。種屋と眼鏡屋です」
「ほー。眼鏡は分かるが、種屋は?」
「それはですね――」
私はルーシュ様にした聖女科の畑の話を、シリル様にも伝えた。
とても興味深く、丁寧に聞いてくれた。シリル様って聞き上手でもあるのだなと思う。
ほぼほぼ、無敵ではありませんか? 我が国の王太子殿下。
王国は安泰だと……何故か年配者のようにしみじみと思った。
第二聖女の思考回路は大分渋い。








