第十二話 シリル様に尋ねてみました。
「……どうして、弟君である第二王子殿下ではなく、私を助けて下さったのでしょう? 考えても思い当たる節がないのです。教えて頂く事は出来ませんか?」
「………」
何か空気がしーんとしてしてしまったというか、改まってしまった。
「ロレッタには何も思い当たる節はないと?」
「……はい」
思い当たる節はない。
でも実は先程一つ思い当たる節が出来た。
「シリル様が、先程、今も昔も君は――と言ってらっしゃいました。残念ながら全ては聞き取れませんでしたが……」
「……そう…」
「もしかしたら……学園で会っていた可能性はあります」
「………もちろん。同じ学校だからね。僕と君は会ってるよ」
「私が入学した年に中等部三年ですね」
「そうだね。君は聖女科だから学生服が白に紺ラインになる。一人だから目立つよね?」
確かに魔法科は黒地に白のライン。そしてSSクラスは白地に濃灰のライン。そして一般教養科が濃紺に白ラインだ。一目瞭然というか、一発で分かる。その中でも聖女科の目立つ事目立つ事。
「その時に、何か失礼がありましたか?」
「……別に失礼なんてなかったよ。あったとしても気にしない」
「……気にしないのですか?」
「まったく気にしない。君の失礼なんてコミュニケーションの一つくらいなものだし」
「……シリル様はお心が広いのですね」
「第二聖女相手には大分広い」
「……誰が相手だと狭くなるのですか?」
「真性の悪人には」
「………」
大分内容がシリアスになってしまった。
「……でも、後輩だから庇ってくれたと考えるのも、少し無理がありませんか?」
「……無理はまったくない。可愛い後輩は庇うものだよ?」
「……そうですか?」
「そうだよ」
「関係性はそれだけですか?」
「それだけな訳はない。関係の一つが学園の先輩と後輩なだけだ」
「他に繋がった関係も聞いて良いですか?」
「聞いてどうする?」
「……心に留めておきます」
「いずれ分かるかも知れない。もちろん分からないかも知れない。君はどうしても知りたい?」
「どうしてもではありません。シリル様を困らせてしまうなら、聞きません。助けて頂いた上に、困らせるのは本意ではありません」
「……人と人との関係は、続柄が全てではない。僕と別腹のバーランドとの関係。もし僕にとってバーランドという人間が可愛い弟だった場合、また答えの出し方は違って来るけどね?」
「………」
「罪のない伯爵令嬢に、卒業記念パーティーで婚約破棄を告げる弟のどこに正義があるのだろうね? 僕は少なくとも、バーランドという人間と十七年間兄弟をして来た。彼の人間性は理解しているつもりだ。その上、王族としてではなく、人間としてのセカンドチャンスは与えたつもりだ。後は彼次第」
「………」
「僕は君に髪を梳かす事を許している。でもバーランドには許さない。背後は取らせない。彼を信用していない。でもロレッタの事は信用している。君が僕の髪を梳かしたいと言った時、何故だろうと思った。理由を聞いても言わなかった。けど好きなようにさせた。そうさせる女性は少ない。そして梳かされている間、君が何でそんな事を言い出したのか理解したつもりだ」
「……理解された?」
「理解した。百パーセント自信がある」
「つまりはバレたと……」
「ああ、きっちりバレた。普通は真意がバレた事をわざわざ相手に言うなど悪手なのだが、今回は内容も他愛もないので言ってみた」
シリル様はゆっくり振り返った。
そして一本の髪を渡す。
「これが欲しかったのだよね?」
「………」
「黄色の純色だよ? そんなに難しくないよ?」
クスリと笑ったシリル様の目が細められる。
私は受け取りながら震えた。
筒抜けだった事の恥ずかしさと。
髪の毛が一本手に入った事の嬉しさと。
シリル様の心の広さが本物だという事に――








