第十話 王都観光準備Ⅱ
シリル様が王都観光に行こうと言うのであれば、今日の主催は王太子殿下だ。
婚約破棄式の段取りをし、両親を王都に呼び、最後はココ・ミドルトンへ罪状を用意してくれたのはこの人。
王太子殿下はどうして、私を助けてくれたのだろう?
ルーシュ様は多分……私を雇用してくれている、雇用主だから。
両親は、私を産んだ父と母だから。
でも……。シリル様は?
彼はどうして?
私とシリル様の間に、関係性というものは存在するだろうか?
強いて言うなら、友達? の侍女??
どこもかしこも微妙だ……。
私は男爵家用のお仕着せと言って渡された服を見ていた。
可愛い服だと思う。細かな所にワークレースが付いているのだ。それが慎ましい量で主張しすぎず、お仕着せらしいといえばお仕着せらしい。
シリル様がわざわざこの日の為に選んでくれたのだろうと思うと、感謝の気持ちしか浮かばない。
「気に入った?」
洋服を体に当てて考え事をしていた私は、シリル様に聞かれて彼を見た。
今日は瞳を黄色から翠色に変える眼鏡を掛けている。
琥珀に変化させる物と、翠に変化させる物、二つ以上持っているのだろう。
翠に変えているのだから、この眼鏡には青が添加されている事になる。
琥珀に変えるものは、ルーシュ様に貸出中。なので今日は翠を着けて来たという経過。
ただ、髪は金髪のままだ。髪飾りもルーシュ様に貸出中。
よく見ると、魔導師ではない人の金髪とは違うのだが、紅髪よりは人混みに溶け込みやすい。
なのでシリル様はそのままの髪色で外出を予定しているのだろう。
眼鏡は二つ以上持っているようなので、シリル様には沢山の髪飾りを今回のお礼として渡そうと思う。
ルーシュ様より変装が好きそうなので、濃褐色や淡褐色、赤茶色や黒髪。
ちょっとずつ色味を変えて十個くらいプレゼントしたら喜ぶかもしれない。
今日はヘアービーズ屋さんにも寄って貰おう。
そうと決まればあの髪の毛を一本頂けないかしら?
色の分析は精度が高いに越したことはない。
じっくり見たい所だけど、髪の毛ならば、一本くらい自然な感じで抜けないだろうか?
しかしーー。
流石に客人の髪というか王太子殿下の髪の毛を引っ張るのは気が引ける。
その辺に落ちてくれるとベストなのだが……。
都合良く髪など落ちるかしら?
私は床の辺りをじっくり見ていた。
視力は良い。
でも、落ちてない。
「あの…シリル様」
「何?」
「良かったら、御髪を整えさせて頂けませんか?」
「え?」
「髪をですね……整えませんか?」
「……崩れてた?」
「いえ、まったく崩れてはいません」
「?」
「崩れてもいないですし、寝癖も立っていません」
「……そうなんだ」
「でも、整えたいといいますか」
「なぜ?」
「理由は……言うことは出来ないのです」
「?」
シリル様は不思議そうに首を傾けた。
「私、準備して参りますね!」
そう言って駆け出したロレッタの事を、不思議そうな顔をして、立ち尽くすシリル様が視界から遠ざかっていく。
座って下さいね!
お客様なので!








