第二話 天敵にはなりたくありません
「炎の天敵は?」
「水だろ……」
「………」
「何を今更?」
確かにルーシュ様の言うように今更感がある。魔法相性は基礎中の基礎。むしろど基礎の部類。いや……ど基礎というより、アクランド王国の国民全てが子供の頃から知っている常識という部類のものだろうか? それはそうだ。この身に染みついてる魔法大国の教えのようなものだから。相性が良い魔法は力を何倍にも増幅してくれる。雷は水の支援を受けると、範囲も威力も莫大に上がる。炎は風だ。強い風が吹くと追い風になって、数倍の速さで燃え広がるのだ。
魔法省でチームを組むとなれば、もちろんこの相性が優先される。炎の魔導師の横に水の魔導師を配置してどうする? そんな采配を行う人間なんていない。
それは当然主従の関係にも言えるのではないだろうか? 主に何かあり、例えば盗賊に襲われたとする。従者は主人を守って戦う訳だが、相性が悪い場合、早々に「離れてろ!」となるのではないだろうか? まったく役に立つイメージが浮かばない。むしろやっぱり「出来るだけ遠くに離れていろ!!!」という感じだ。気遣いでもなんでもなく素で。本気で離れて欲しい。絶対近づかないで欲しい。くらいの勢い。
使えない。それは使えない従者だ。私の想像上の主を守って戦う格好いい戦闘メイド? とは全然違う。現実はメイドでも騎士でも護衛でもなく一介の侍女なのだが。そうは言っても戦える侍女の方が戦えない侍女よりお得感があると思う。
私は水の魔導師なのだから、戦える侍女というのも夢ではない。残念ながら聖女科在学生だった為、戦闘は教わっていないのだが。もう一度魔法科に入学し直して水の魔導師として訓練を受けたいくらい……だが。さすがにそれは、学費も時間も労力も計り知れない。
そこまで考えて、ふと名案が浮かぶ。何もそんな馬鹿高い授業料を払わなくても、シトリー伯爵家の父は氷だが、セイヤーズ侯爵家は一流の水の魔導師の一族。氷は水も兼用しているが、父は人に教えることに適性が高いとはいえない。よくよく考えれば私のお祖父様と伯父様は超一流の水の魔導師だ。今日まで意識した事はなかったが。父が伯父にお小遣いをせびる仲ならば、それほど難しい案件ではない気がする。
父からお願いして貰えば、承諾して頂ける? いや待て待て。エース家とセイヤーズ家って仲悪くなかった? 魔法相性も当然悪いのだが、塩問題。更には領地が隣接している事により起こる境界線問題などなど。隣接地の領主同士にありがちな、不仲説。
……エース家の侍女に戦闘訓練を施してくれる? 想像出来ない。ない線かもしれない。
私は主従の相性問題が衝撃だった為、主人の前で長い妄想に陥るのだった。
それこそが使えない侍女であり、不敬である事に気が付かずに……。
一章に続きまして、誤字脱字報告をして下さいました読者校正様、いつもありがとうございます。作品の完成度を上げてくれているのは間違いなく皆様です。感謝しております!








