第一話 あの日からの始まり
新章の投稿を開始いたします。
週4~5ペースを考えております。
楽しんで頂けたら幸いです。
ココ・ミドルトンの乱暴な声が少し耳に残る。元男爵令嬢は闇の烙印を押されたのだろうか? きっとこの空の下で一生交わることのない人生を送るのだろう。私は彼女を目の前にすれば、またきっと言葉を失ってしまうから、だから一生会わない方がいい。
あの後、父は今日は用事があるから王都観光は明日にしよう、と言って何処かに行ってしまった。慰謝料の書類は大切そうに持っていたが……。最初から最後まで存在感のなかった母は、肩が凝っちゃったわ……と言いながら、淑女にあるまじき事に肩を少し動かしながら、明日が楽しみね? と脳天気なこと言う。確かに楽しみですけれども、本当に観光代はどうする? もしかして今回の慰謝料? ありえるわ。うちの親ならありえる。
そんな疑問を持ちつつエース家の離れに帰宅したのだが、私はルーシュ様の執務室に呼ばれていた。実はまだ眼鏡をかけたまま、そして神官服のまま。下級神官の礼服は紺色のラインが服の輪郭を象るように入っている。それが白い神官服に映えるのだが、紫色の瞳も同系色で映えている。見始めるとついつい目が離せなくなってしまうほど凜々しい出で立ちなのだ。我が主、素敵すぎます!
「こうして見ると、敬虔な二人組だな?」
ルーシュ様は少し笑いを含みながら言った。そう言えば私も聖女の礼服、聖女のⅠ種制服、自分的戦闘服だ。ルーシュ様は神官服で私は聖女の礼服だから傍目から見るととても敬虔な二人組で背景は教会が良く似合う。言われてみればその通りだ。このまま慰安訪問にも行けそうな出で立ち。彼は変装ですけども。
「本当にその通りですね。いつか二人で出掛けたいです」
「え?」
「え?」
いやいやいや。私、何言ってるの? ルーシュ様は出掛ける話なんかしてないよね? どうして出掛けるとか言い出した? 妄想?
「街の教会とか、孤児院とかそういう所に行ってみたいです。今までは貧乏だったので手ぶらで行っていたのですが、初めてのお給金が入ったら、城下で甘いものを買って行ってみたいです」
言ってしまったついでなので、何か色々付け加えてみた。ルーシュ様は紅の魔導師であり、エース家の次期当主。神官になる未来は来ないからこそ、このお姿は貴重な気がする。実は近い未来定期的に神官服に袖を通す事になるのだが、そういった未来は今の私の与り知らぬこと。
「……では、今度王都の孤児院でも行ってみるか。魔法省に気になる報告が上がっていたからな」
「気になる報告ですか?」
「そう。部下に行かせる予定だったのだか、俺が直接行くのもありかも知れない」
「なるほど」
部下ですか……? 部下がいらっしゃる?
入省三年目で部下がいらっしゃる。有能です! 我が主!
「……しかし、ロレッタは第二聖女なのだから、手ぶらでも問題ないだろう? 聖魔法が最大の手土産になるだろうし?」
「いえいえいえ。確かに聖魔法は傷病を治すことは出来ますが、甘くはないですしお腹も膨れませんから」
「……お腹」
「そうです。やっぱりこう甘いものにはですね、特別な天使と言いますか、魅惑的な小悪魔と言いますか、そういうものが宿っているのですよ」
「天使と悪魔は逆だが」
「いえいえいえ。甘い天使と苦い悪魔が共存しているんです」
「……へー」
「まあ、簡単に言えば夢のコラボのようなものです」
「……ほー」
「私は焼き菓子など買えない身分でしたので、聖女科の薬草畑の隅にこっそり小麦を植えていたのですが」
「いや、こっそりって。金色の穂がいかにも目立ちそうなのだが」
「いえいえいえ。その辺は抜かりありません。背の高い薬草の近くに植えるのがコツですよ」
「……コツ」
「そうコツです。バレないコツ」
「聖女らしくない発言来たぞ」
「気にしたら負けです」
「ならば俺は既に負けてないか?」
「大丈夫。そこもコツです。我が主」
「? 我が主? 騎士が忠誠を誓うみたいな呼び名になってる」
「すみません。今、若干心の声が漏れたかも知れません」
「お前は心の中で俺のことを『我が主』と呼んでいるのか?」
「………」
ロレッタは少し顔を赤らめて俯いた。
「格好良くて、頼もしくて、剣を預けるに値します」
「剣?」
「剣です」
「剣とは?」
「聖女の剣は光の聖魔法……と言いたい所ですが、水魔法も使えるので水の剣の方がロマンチックでしょうか」
「水の剣は堅いのか?」
「堅いですよ? 色々切れます」
「……俺の戦いの最中に水を使うなよ?」
「?」
「消えるからな。火力半減だ」
「!?」
ルーシュ様の炎を打ち消してしまう!? まさか主と従の相性最悪!?
私は少し体が震えそうになる。
「炎の天敵は?」
「水だろ……」








