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【046】『六芒星の守りの府』


 

 王太子殿下がテキパキと指示を出し、元第二王子はなんの抵抗もなく連れて行かれた。



 残った私たちも元第二王子に負けず劣らず呆然としていた。呆然としていないのは氷の魔術を展開した張本人と、いち早く我に返った王太子殿下だろうか。二人とも一流の魔導師なので、耐性が強いのかも知れないが……。


 そんな中、カタカタカタカタと小刻みに震える音が、礼拝堂に響いている。ミドルトン男爵が震えている音……。


「ココは私とかつて私の屋敷に勤めていたメイドの子です。今までは生活費を負担し、この親子が路頭に迷わないように面倒を見て来ました。王立学園への入学もココと元メイドである母親の希望で入れました。けれど、彼女も卒業し、成人しました。妻との約束でもありますから成人と同時に援助は打ち切り、縁は絶ち切るつもりです。もちろん一両日中に荷物を纏めさせ、母親の元に返します。六侯爵家に逆らうつもりなど毛頭ありません。私も貴族の端くれです。この国が六芒星の守りによって平和が保たれている事くらい知っています。ココは勘当し、以後娘と思うことはありません……」


 最後は消え入るような声だったが、ミドルトン男爵は震える声で話し切った。そしてまだ震えている。ちなみに六芒星の守りとは六侯爵家が守る国境線である。六カ所に配置され、中央の王家を守る形だ。そしてこの六カ所の領地は王家に取って重要な産業の要でもある。海は塩。山は鉄など国にとって外せない富と力。


「心配はない。弟のサインは全て貰ってあるからね。手続きを再開しよう」


 いち早く立ち直った王太子殿下は涼やかな顔で続けた。シリル様、なんとなく頼りになります。流石弟が四人もいる王太子殿下といった所でしょうか。ルーシュ様はというと、何事も無かったように神官として控えている。こちらも既に平常運転です。それにしても全身白い神官服に、紫の髪色が映える。どうして今まで気づかなかったのだろう? と思うくらい洗練された神官だ。下級神官として溶け込んでいた事に驚く。眼鏡も理知的だと思う。今度、黄色と蒼を入れた眼鏡をプレゼントしよう。そうすればルーシュ様の瞳は茶色になり尚一層目立たなくなる。いや紫の瞳も素敵ですけど! 


「では、婚約破棄式は終了し、バーランドとココの婚約式に移ろう。除籍済みの為、王家の印は必要ない。そしてミドルトン家の印も不必要。但し、保証人のサインが必要となる。二人の意志による結婚という事実を保証するものであって、それ以上でもそれ以下でもない。つまり金銭等の保証は皆無。一カ所は兄である私が、もう一カ所にはミドルトン男爵が、更に当事者のココがサインをして婚約済みとなる。バーランドのサインは記入済み」


 王太子殿下とミドルトン男爵が保証人の欄にサインをすると、ココに回す。だが、ココは手を動かす気配がない。


「……あの、私、バーランド第二王子殿下が法を変えるまで愛妾の立場で待とうと思います。彼も先程そう言っていましたし」

「は? 何を言い出すんだココ。法は変わらない。変わる法は変えるべき法のみ。彼はもう第二王子ではない。除籍済みだ。法を変える立法者になる為には、法に精通しなければならぬ。そういう勤勉なタイプではないのは私が見ても明らか。お前は市井で育った所為か、ものの成り立ちが全く分かっておらぬ。教養科でいったい何を勉強していたのだ。高い学費を払って行かせてやったのだぞ」

「お父様、変わるか変わらぬかはやってみなければ分かりません。私は力のある魔導師が統べる国に疑問を感じているのです。先程も彼の手が燃えて凍り付きました。恐ろしい力です。そんな力などない国になってはどうでしょうか? 皆が一律に魔法を使えなければ良いのです。魔導師が魔力素養のない人間と結婚すれば、いずれこの国から魔導師はいなくなります。ですからサインはしません」

「サインをしなくても結構だよ? 自由意志だからね」


 ミドルトン男爵ではなく、ココの言葉を受け止めたのは、王太子殿下だった。あの、国を守り続けた魔導師に対する侮辱のような言葉。私は魔導師の一人としてココという人間に大きな違和感を感じた。


 なんだろう? 今の言い分は。つまりは魔導師のいない国が理想郷と言ったのだろうか? 今、安全に衛生的な水が飲めるのはセイヤーズ家を始め六大侯爵家が治水管理を一手に引き受けている為だ。そうでなければ工事と管理にどれだけの月日を要するか分からない。


 この国に住み、当たり前のように魔導師の恩恵を受けていて、なんとも思わず感謝も感じていないという事。知らぬとは無責任で恐ろしい。何故学ぶ機会を得た学生だったのに歴史を何も知らないのだろう? 


 教養がないと言えばそれまでだが、もっと悪意ある考え方をすれば、この国の力を内側から削ぐという行為になる。魔導師がいない国など国防があってないようなもの。隣国に攻められれば一瞬で陥落する。ということは隣国の間者。アクランド王国は内部工作を受けている? アクランドに魔導師がいなくなれば得する国というのはいくらでもある。


 それに貴族だって特権階級だ。王子妃になって栄耀栄華を築きたい人間が魔導師を排除し貴族のみ残すとはどういう事だろう。つまり自分の脅威になる者を排除したいと言う稚拙な考えだろうか? 


 一、教養不足 二、スパイ 三、妬み の三パターンの可能性が考慮される。二が一番厄介で可能性は低いと思うが。行動から考えれば三。そして三を正当化し、もっともらしい理由を付けていると考えるのが自然?


「では、平民バーランドと平民ココの婚約式は延期としよう。それとは別に平民ココに罪状が出ている。我がアクランド王国伯爵令嬢に対する名誉毀損罪。婚約者のある者と不貞を働いた姦通罪。王族との姦通罪は国外追放。消えぬ闇の烙印を刻む。一つはアクランドの地を二度と踏めぬ排除印。二つ目は子を宿せぬ体にする姦通印。婚約者への貞操権侵害。王家主催の王立学園卒業記念パーティーでの趣旨を乱した行動への損害賠償と学園からの除籍処分」 

「え?」

「自分は関係ないと思っていたか? 平民ココ。貴様と第二王子の関係は割れている。王族との間に出来た子供は火種の元。姦通罪は古くからある刑法。その体に見せしめの姦通罪の証を入れる。正式な婚約者のいる第二王子と不貞を働いたんだ。ただで済むと思っていたのか?」


 王太子殿下は黄色い瞳を細めてココを見ていた。


「私は何もしておりません!」

「では、魔導師に対する名誉毀損罪と王族に対する不敬罪も追加する。連れて行け」

「ちょっと、待って! どうしてそんな事になるの! 私は王子妃になる女よ! こんなことして許されると思っているのっ」


 衛兵に連れて行かれるまで、礼拝堂にココの文句が響いていた。




 


 ここまでお読み頂きありがとうございます。

この話で一区切りになります。エピローグを書き足して一章了となります。




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― 新着の感想 ―
ほんと。馬鹿同士お似合いだと思いますよ(遠い目
[一言] …頭悪過ぎるやろ…(笑)
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