446【44】『神の錫杖Ⅱ』
……白木ではないんですね。
うん。
そういうことで合ってる?
聖女に白木。
よくよく考えてみれば若干ミスマッチではないだろうか?
白木のワンドを持っているイメージが全く湧かない。
もっと早く気づくべきだったか……。
神の錫杖という名前に引きずられて、木の杖をイメージしたが、神ではなく聖女の方を強くイメージした方がよいかもしれない。
私の大好きな建国記。
雷の賢者と炎の賢者はハイブリッド剣士というのは案外有名で、必ずその手に剣が携えられている。
剣が魔法の媒介になってるわけだ。
剣の柄にはそれぞれの魔法属性を象徴するような石が嵌め込まれていて、その石が大きな力を持っている。力を宿した石は、魔導師の力を増幅するとても大切なアイテムだ。
だからこそ王都にも各主要都市にも魔石屋は必ず存在するし、黒の領地で採掘される鉱物は、彼の領地の経済を支えている。
黒の領地といえば、鉱物と武器。鉱物は資源で武器は加工。
鉱物に大きな付加価値を付けている。
つまり自領の資源を、自領の技術で練り上げてるわけだ。
鉱物精錬の技術は、黒の領地の右に出る地はない。固有の特殊技術を持ち合わせている。
剣士、そしてハイブリッド剣士にとって黒の領地の武器を持つということは一つのステイタスでもある。
つまり……。
石。
今度は石に絞ってアプローチをかけてみよう。
これは武器の形状や素材よりも余程近道なのではないだろうか?
なんせ石なのだから。
そこまで大きくイメージを崩すとも思えない。
石はその武器の要のようなもの。
石さえ想像できれば、自ずと武器はついてくるのではないか?
後付け? とは聞こえが悪いかもしれないが、切り口としては悪くないはず?
私はいかにも聖女が持ちそうな石を想像してみる。
大切なのは属性に当たる石。
聖女いえば光りの聖魔法。
光りの聖魔法は七色の魔術。
勿論七色の属性を使いこなせる訳ではない。
七色の光りが混ざってつまり透明。
白から透明の石が光り魔法の属性石になるのだ。
乳白色の鉱物である蛋白石。
角度によって、色遊びがあるのが特徴で聖魔法とも頗る相性が良い。
金剛石でも良いのだが、これは王家の石とされているので、光りの侯爵家は使わない。
海の宝石真珠でも良いが、ワンドに嵌め込むのならば、オパールの方が良いのではないだろうか?
そんなこんなで七色に輝くオパールを想像してみる。
オパールの表面は金剛石のようには角を作らないカットが一般的だ。
だから丸みの帯びたイメージで、それでいて結構大きめ。
宝飾品に付けるものよりも、ワンドにつけるのなら三回り以上大きい。
大きさは力の強さに比例するので、小さな消耗魔法ではなく、武器として毎回魔力を流し続けるのだから、理想は拳とまではいかないまでも大粒でなくてはいけない。
私は、シリル様とルーシュ様と訪れた王都の宝石店を思い出す。
あの時、私は二つの石を買って頂いた。
一つはイエローダイヤの指輪。
もう一つは第五王子殿下の守りの石であるペリドット。
両方とも見た瞬間にこれだと思って気に入ったんだよね。
インスピレーションのような、そういったもの。
初代の国王妃である大聖女陛下。
どんな石が好きだったのだろう?
男子達と違って、ドラゴンの瞳や爪などということはあるまい。
もっと彼女らしい石なんだと思う。
人魚の雫とか月の光とか。
私はじっと考える。
初代大聖女。
彼女の肖像画はどんな宝石を着けていただろうか?
やはり、建国の王である雷の魔導師の色を模した黄色の金剛石だろうか?
「シリル様、ルーシュ様、大聖女が好きな石を御存知ですか?」
なぜ、今までお二人に聞かなかった?
なぜ自分で答えに辿り着こうとした?
聞こうよ?
この二人は御存知の筈じゃないか?
なんせ身近な存在とまで言っているのだから。
シリル様はにっこり笑い、ルーシュ様は呆れたように溜息をついた。
「お前は知らないのか?」
ルーシュ様に言われて素直に頷く。
知りません。微塵も?
「……イエローダイヤとも思ったのですが、それじゃあ属性魔法は増幅されませんからね」
「そうだな」
「ならばオパールなのではと思い至ったのですが、形状のイメージが出来ません」
「成る程。ちなみにオパールじゃないぞ」
「え」
オパールじゃないのですか?
驚きです。
「じゃあ、人魚の雫でしょうか?」
実はこの人魚の雫。エース家が養殖に成功しているのではないかと囁かれている。
鉱物は山で採掘されるが、真珠は海だから。そして入り組んだ海で採れやすい。
淡水湖でも採れるんだけどね。塩湖では採れない。貝は育たないから。
「真珠じゃないよ?」
ルーシュ様に替わってシリル様が教えてくれた。
真珠じゃないんですね?
では――
神の錫杖って…………。
「大聖女は錫杖など持っていなかった」
「…………」
え? そこから? そこから間違っていた?
「持っていないのですか?」
「うん」
「…………」
じゃあ、私は今、手を鉢に入れて何を探しているのでしょうか?
フェーン聖国女王陛下があれだけハッキリとお言いになったのですけども?
「じゃあ、私は何を求めれば?」
「それは神の錫杖で間違いない」
「…………」
そこは間違いないのですね?
じゃあ。
「でも、彼女は肌身離さず錫杖など持っていない」
えっと。つまり。
私は考え込む。
「錫杖という名の錫杖ではないということで合っていますか?」
「合っている」
「…………」
私は黙考する。
つまり、手にワンドを持つということではないのならば、形状が違うということだろうか?
もっと小さなステッキのような? コンパクトワンド?
「つまり棒くらいのサイズなのでしょうか?」
「棒?」
「棒」
「神の錫杖が棒……」
シリル様が少し残念そうに呟いた。
棒は不味かったですか?
「じゃあ、タクトくらいでしょうか」
宮廷楽士が使うあれです。あれ?
あれもいわゆる棒ですかね?
軽いし聖女が使うと考えれば、それくらいのサイズ感が一番使いやすい。
身の丈より大きな杖だと重そうだよね?
「聖女の錫杖はね、人の涙で出来ているのだよ?」
「え?」
「死んでいった、助けることが出来なかった。そんな者達が流した涙」
シリル様がそう言った瞬間、一枚の精霊樹の葉から光が溢れた。
え? 光の渦?
そう知覚した時、私は既にその光に飲み込まれていた。
ここじゃない場所。
光が溢れる場所。
私はそんな場所に呼び寄せられたのだ。
いつもお読み頂きありがとうございます。この話をもって四章④瞳の中のProgram了となります。そのまま四章⑤『風が吹く場所』に入ります。四章は⑤で章エンドになる予定です。四章のラストまでお付き合い頂けると嬉しいです!









