444【42】『流しの聖女は意外とあり?』
私が『流しの聖女』うんぬんに思いを馳せていると、女王陛下がこちらに美しい微笑みを向ける。
アレ? 私一国の陛下に零れるような美しい笑顔を向けられている?
これは流しの聖女として勧誘?? なの?
私も遅ればせながらにこにこにこと微笑み返す。
ホスト国は大切にしたいという。
「では引くように?」
「?」
え? どゆこと? 何を?
求められているのは笑顔じゃなかった!?
女王陛下は手に持った硝子の鉢のようなものを差し出す。
それはこの国に来た時、目にした金色の葉。その葉を集めて入れている容器のような物だ。三十センチくらいだろうか? 然程大きくもない代物だが、小さい訳でもない。
その容器を差し出された私はどうするのが正解?
何も思い付きませんけども?
私が首を傾げていると、女王陛下は更にぐいと私の方へ差し出した。
くれる??
受け取ろうと私が手を出すと、その容器を渡さされる……ということはなかった。
くれる訳じゃない?
「聖女よ、何をしておる」
何をしておると言われましても?
「くれるのではないのですか?」
「くれる訳ないじゃろ。これは精霊樹の葉を集めたものぞ。何故我が聖女にくれてやる謂われがある?」
そう言われましても。
「じゃあ、何故私はこの鉢を差し出されているのでしょうか?」
「手を入れるのじゃ」
「はい?」
私は言われたままに透明の容器に手を入れようとしたが、暫し思い留まる。
「入れてどうするのですか? 葉を拾うのでしょうか?」
「葉の中から大切な葉を選ぶのよ」
「はあ、葉の中から」
私は透明の葉の入った容器を屈んで横から確認する。
鉢には金色の精霊樹の葉がきらきらと舞っている。
綺麗。
綺麗だと思うけど、でも沢山の葉が入っているというのも微妙な違和感が。
まさか次元空間に繋がっている?
そういう鉢なのだろうか?
「あの、この鉢は紫の魔術師からの贈り物ですか?」
「そうじゃ。昨今の贈り物の中で一番のお気に入りよ」
「……なるほど」
確かに宝石のような輝きだ。
葉から金色の光りが零れている。いつまでも、いつまでも。
「素敵な贈り物ですね」
「そうであろう」
「精霊樹の葉を集めているのですか?」
「そうじゃ。ここに入れねば茶色く朽ちてしまうからの。葉の一枚一枚に小さな精霊が宿っておる。こうすれば枯れずに金色に輝き続ける」
私は透明の鉢を見ながらにっこりと笑う。
危ないゎ。それ間違いなく次元の扉だゎ。安易に手なんて入れられないでしょうよ。
「ちょっと、手を入れるのは危険ではないですか?」
「何を言っておる。危険などない。何故なら我が何度も何度も手を入れているからな」
ほう。そうなのですね?
実際に女王陛下は自らの手を出し入れして見せて下さった。
私はちらりとアシュリ・エルズバーグに視線を移す。
私はあの人を信じていません。
きっぱりと宣言出来ますからね。
それって女王陛下が入れれば安心。だけど私が入れると非安心という奴なのでは?
「何故、私はその中に手を入れなければいけないのでしょうか?」
「それが定めであり、越えるべきものだからであろうよ?」
「?」
定めってなんですか!?
急にワードがでかいわという。
「定めとは?」
「手放したモノをその手に取り戻すため」
「手放したものを?」
「そちは丸腰で第五王子を迎えに行くのかえ?」
「え?」
「丸腰で行って叶う相手なのかえ」
「…………」
「紅の魔術師が『地獄の業火』を使い熟すように、黄金の魔術師が『雷王の剣』を使い熟すように、お前にはお前の守りがあるだろうよ』
「え?」
私の守りの盾?
「…………聞いたことありませんよ?」
「酷いな聖女よ」
酷いな……って、言われましても。
「私には私の剣があると言うのですか?」
「剣なわけないだろ」
あ、うん。剣なわけないですよね。
「お前はその細腕で剣を振り回せると思っているのか?」
思っていません。
思ったこともありません。
「じゃあ、ワンドとかですか?」
魔術師と言えば一般的に杖ですよね。
力のある石が柄に付いていて、力を増幅させるという奴でしょうか?
でも、杖を持っている聖女は今の所見たことないなーとか思う。
聖女科の聖女も誰も杖を持ってないよ?
「神より預かりし神器」
「え?」
神器!? 嘘?
「聖女が振ると、しゃらんしゃらんと音が響き、聖女の通った道は、その名の通り清浄に化す。名器中の名器」
「?」
「お前はそれを手にしなければならない」
「…………」
「そうでなければ、負けるぞ。あの魔女とやらに……」
負けるぞって。魔女って。
なんでそんなに俄用語使い熟すのですか、女王陛下。
魔女なんてさっき紫の魔術師が適当に言った言葉ですよ?
「…………ああ、負けるな。お前みたいな小娘に勝てる要素なんてあるのか?」
そこまで言う?
「そうでなくとも王宮は魔女の庭。戦う場所の優位性は分かっておろう。『神の錫杖』を手にするもの、即ち大聖女の証。ただの第一聖女には持てぬ武器。お前がお前である印のようなもの。外せないな」
外せないなって。
「お前が大聖女であるならば、この精霊樹の葉が導いてくれよう。お前には端から選択肢はない。この鉢に手を入れる。一択なのだよ」
「…………」
一択なんだ。
危なそうで。
紫の魔術師の贈り物で。
如何にも次元に繋がっていそうな鉢なのに。
手を入れる一択。
本当に?
「私は『神の錫杖』を手にしなければ、第五王子殿下を救えないと」
「そういうことだ。無駄足になるどころか、お前が手にしているカードも何枚かは奪われるじゃろう」
あの恐ろしい人に。
「場所の優位性。狡猾さ。頭の回転の速さ。動かせる魔術師の数。お前は何か勝っているのか?」
私は、何にも勝っていない。
きっとそう。
そもそもが彼女は正真正銘の前期第一聖女。
私は第二聖女だ。
今まで課せられた環境も責任も違う。
比べようもないことだ。
「…………私が勝っているのは、薬草の育て方くらいですかね?」
「そのくらいであろうな」
そこはやっぱり勝ってる?
「お前が入れれば、紅の魔術師も黄金の魔術師も必ず入れる。全てのモノがあるべき場所へ還るのだ」
私は女王陛下のその言葉に反応してルーシュ様とシリル様を見る。
「元より、俺もそろそろ迎えに行こうと思っていたところだ。問題ない」
ルーシュ様はそんな言葉を返してくれて、シリル様も、
「僕もだよ」
と優しく付け加えてくれた。
そうなんだ。
端から一択とはそういうこと。
私は覚悟を決めて一歩踏み出す。
そしてきらきらと光り続ける美しい硝子の容器に手を差し込んだ。
明けましておめでとう。
今年も宜しく( ΦωΦ )









