442【40】『伝説のモノ』
『地獄の炎とも呼ばれた伝説魔法剣ヘルフレイム』
私がその言葉を口にした途端、場が一瞬静まり返った。
「…………」
アレ…………――
ここは沸き立つ所じゃなかった?
違うのですか?
炎の賢者の剣は有名なんですよ?
だってですね、一度纏うとその炎は消えることがないと言われていて、それは正に地獄の業火そのものという。
「お前、どこでそんな名前聞いたの?」
ルーシュ様が呆れ顔で聞いてくる。
いや、呆れ顔って。
どうして???
「建国記の中です」
ええ。建国記は色々な作者によって書かれているが、その中でも所謂冒険活劇のようにわくわくする内容に仕上がっているものもある。
「建国記ね。今となっては沢山あるからな……」
「……確かに沢山ありますけども」
「その中で言われていたのか?」
「はい。全ての賢者の武器に名前が付いていましたよ?」
「……そうか」
「そうです」
「……わりと残念なやつ?」
「いえ、まったく。むしろ賞賛のやつです」
「賞賛?」
「賞賛です」
「何かの間違い?」
「いえ。万人が認める人気作です」
「へー……」
自信ありますよ?
「……ヘルフレイムね?」
「どちらかというと地獄の業火です」
「何が違うんだ?」
「空気とニュアンスです」
「へー……」
場が微妙な空気になってしまった。
「ねえ、ロレッタ」
「何でしょうかシリル様」
場の空気が神妙になったところでシリル様が話しかけてくる。
「僕の剣の命名は?」
「?」
御存知ない!?
自分の命を預けた相棒のような存在である剣の名を?
周知の名ではない?
作品の外には流出していない? 作品の中だけとか、そういう扱い?
「あの、シリル様はなんと呼んでいるのですか?」
「………………剣と」
「剣?」
「僕の剣と」
なんとライトな呼び方。そのまんまですねっ。
「シリル様の剣は『雷王の剣』と呼ばれていました」
「え?」
「『雷王の剣』です」
「そんな馬鹿な」
「ん?」
そんな馬鹿なと言われましても。
「ルーシュの剣が『地獄の業火』という何か格好いいんだか微妙なんだか分からない名前なのに、僕の剣が『雷王の剣』だなんて。シンプル過ぎるし』
「シンプル過ぎると言われましても……」
事実です。
「今少し、凝った名前にしよう」
「え?」
そういうもの? 今、考える?? 建国記は??
「『雷王の剣』などどうだろう?」
長っ。
キュムロニンバス。積乱雲ですか? 雷を連れてくる雲ですね?
合ってるといえば合ってますが、雲……。
「…………有りと言えば有りなのではないでしょうか」
「……………ロレッタはピンと来ていない?」
いえ、なんと言いますか、つまり初耳という感じです。
キュムロニンバスって水の魔導師の大魔法に有りそうだななどと考えていました。
「…………良いと思いますが、まだ慣れていないという感じです」
サンダー系も捨てがたいよね?
光りの拡散的な名も捨てがたい。
「一応、暫定『雷の剣』と呼びますか?」
「暫定?」
「はい。仮名みたいな?」
「うーん。仮を入れて呼ぶのは……」
「いえ。呼ぶ時は仮の部分は入れなくても」
シリル様は少し考えてから、場にいる皆の顔を見る。
「皆の意見も聞こう」
ん? 会議みたいな場になってきました。
皆満更ではないようで考え始める。そうなんですね!
「『建国王の剣』とかどう?」
とルーシュ様が言えば、
「『精霊王の剣』が良いじゃろ」
と女王。
アシュリ・エルズバーグは黙って聞いていた。
こういう命名式? ではないけれど、命名の儀というほどでもないけど、名前を募る場でルーシュ様が一番に発言したのが意外過ぎて驚いた。
『精霊王の剣』って。
なんか雷の王から遠くなってないですか?
それは女王陛下が使う剣の間違いでは?
ヤバイ。私はそんなに直ぐは出てこない。
でも、折角のチャンスというか、歴史に残る名を付ける機会。提案くらいはしたいものだ。
シャイニングソードじゃ普通過ぎるし、雷を支配するもの的な名が良いと思うのだが。でもあまりストレートだと、分かりやす過ぎてオリジナル感がなくなってしまう。サンダーマスターソードからやや捻りたいところ。輝くみたいな意味でルミナスソードとか。でもやっぱり雷の王者を入れたい。
「『雷王の剣』とかどうですか?」
ギリギリ時間制限に掛からず発言できた。発言出来ただけで大満足です。トニトルスは古の言語で雷という意味。古代魔法などにも使われる言葉だ。マスターをルーターという単語に変えてもいいし。支配者みたいな。
「じゃあ、それでいく?」
シリル様が私の言葉を聞いて、少し首を傾けて聞いてくる。
「え?」
「だから、『雷王の剣』」
いや行くと言われましても? そうしますかと言える所じゃない。
そうしましょう。こうしましょう。とかはちょっと……ね。うん。
慎重。
ここは慎重に。
うん。
「じゃあ、『雷王の剣』を出すか?」
成り行きを眺めていたアシュリ・エルズバーグは徐に言った。
いや、まてまてまて、待って。
何、使っているんですか?
油断ならないですね、アシュリ・エルズバーグ。
もっとよく考えよう?
そうしよう?
その方が絶対良いって?
私は心臓に汗を掻く。
仮で。
仮でお願いしますよ?
(仮)ですからねっ。









