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441【39】『遠い昔の友誼』




『普段はそんなでもないのだがな』


 ルーシュ様との会話に紛れた言葉が耳に残る。

 (いにしえ)の大聖女様の性格というか主義というか価値観とうか、そのようなものの説明で出てきた言葉だ。


 普段はそんなでもないのだがな。

 つまり普段はそんなに強い主張をするタイプではないということですよね?

 普段か……。

 その言葉は彼女を普段から知っているから出る言葉。

 身近な人に使う言い回しですよね?

 ルーシュ様にとって古の大聖女様はそんなに近しい存在なのですか?


 私はルーシュ様の横顔を仰ぎ見る。

 いつもと変わらない横顔。

 沈着冷静な紅の魔術師。炎の魔導師の最高術者。


「ルーシュ様にとって、大聖女様は身近な方なのですか?」

「……わりと」

「…………」

「何故とか思ってる?」

「……思っています」


 私は素直に言った。

 だって本来全然身近じゃないです。

 歴史の中の人です。


「記憶がそうさせるからな」

「記憶」

「そう。永遠に輪廻するその記憶」


 私は考え込む。

 輪廻する記憶とは?

 先程女王陛下も言っていた。

「聖女よ、記憶はあるのか?」と

 私はあると答えた。幼少期からの記憶があると。

 すると女王陛下は首を傾げられたのだ。


「ルーシュ様には輪廻する程の長い記憶があるということで合っていますか?」

「合っているぞ」

「……想像が出来ないのですが?」


 それは何の魔法?

 定着の魔法?

 どういう原理?

 肉体を失った時に、記憶というものは全て失われる。

 当たり前だ。記憶は脳に焼き付いているものだから。

 体に染みついた記憶というのもあるかもしれないが、それも勿論肉体そのもの。

 もしも、体の生を超えて、記憶が維持できるとするならば、毎回毎回誕生の度にインストールされるということになってしまう。それこそ誰かの魔法において。

 出来る気がしない。

 生と死の狭間で記憶をコントロールするなんて……。

 そんなものは神の御業(みわざ)


「もしもそれが本当ならば、壮大な魔法ですね?」

「……そうなるな」

「記憶を保持出来るということは嬉しいですか?」


 私の言葉にルーシュ様は黙って私の顔をじっと見つめる。


「嬉しくはないが、こういうものなのだろうと思っている」

「…………」

「贈り物だからな。初代大聖女の」

「……贈り物」


 記憶が? 初代王妃陛下の贈り物?


「大変な贈り物ですね?」

「……そうなるな」

「その意図は?」

「………………平和かな」

「平和」

「そう平和。端的に言ってコレ」

「随分と大きめにきましたね」

「そうだな」


 平和か。

 平和は大切。

 理不尽に蹂躙されない世界のことだ。


「後の世の平和ということですか?」

「そうなるな」

「歴史教科の勉強において強みになりますね」

「……そこ?」

「ええ。国史も世界史も完璧みたいな」

「どうだろうな?」

「私も欲しいですっ」


 歴史無双魔法。


「……お前は既に持っている」

「え?」

「忘れているだけだ」

「忘れている?」

「そう。多分封印されているのだろう」

「……封印の魔術? …………黒魔法の領域ですか?」

「いや、聖魔法だろ」

「え?」

「ん?」


 聖魔法でそんな真っ黒魔術?

 どう考えても紫の魔術師の得意分野に見えるのは私だけ?



「おい」


 私が魔術の専門領域に考えを巡らせていると、ルーシュ様は私にではなく紫の魔術師にであるアシュリ・エルズバーグに声を掛ける。


「王太子と俺を強制転移させたその見返りは?」

「……何のことだ?」

「分かっているだろ?」

「まあ、分かっているがな」

「じゃあ、さっさと出せよ?」

「つまらないだろ? さっさと出したら」

「ロストしたのか」

「してるわけないだろ? していたとしても嘗ての賢者から聞き放題だった」

「そうか」

「そうだ」

「じゃあ、勿体ぶるなよ?」

「それ程欲しいか?」

「当たり前のことを言わせるなよ。精霊を助けて欲しくば必要なものだ」

「……精霊を助けることは我が目的にあらず」

「結果的には同じだろ?」

「まあ、結果はそうかもな」

「なら問題はない」

「そうとも言うな」


 なんでしょうか? 微妙に挑発的な会話だなと思う。


「ルーシュ様? 紫の魔術師と何かあるのですか?」

「それは、あるだろう?」

「何があるのでしょう?」


 会話からして、預けモノ? ですか?


「何か大切なモノを預けていらっしゃる?」

「預けた記憶は全くないからな、自主的に預けて代物ではないのだが。十中八九彼が持っている。何故ならそうとしか考えられないから」

「……成る程」


 そういうモノ。

 状況的に紫の魔術師が持っている可能性が高いモノ。

 その上、先程の口ぶりからは、代々の紫の賢者も知っていると。

 私は少し考え込む。

 それって、もの凄いモノということですよね。

 だって、わざわざ時の魔術師に預ける訳ですからね。

 その上、代々知っていらっしゃるというのはもの凄く大きなヒントですよ!

 しかもわくわく系の。つまり歴史有る由緒正しいモノということじゃないですか。


 さっきの会話から類推するにそれは戦いに必要なものだ。

 だって精霊を助けるとか助けないとか確実性が上がるとか言ってる訳ですからね。

 つまり端的にいって、ルーシュ様が今の状態よりパワーアップするということじゃないですか?

 もちろん紅の最強魔術師なので、今のままでも強いといえば、十分過ぎる程強い訳だけど、でも――魔術師というものは、剣よりも早く魔法を繰り出すのが勝利の絶対条件というか、前衛に守ってもらいながら戦うのでは、単体の戦闘力が落ちてしまうのだ。


 それを補佐するモノを七賢者は皆持っていたではないか。

 そして紅の魔術師が持っているものといえば――



「『地獄の炎』とも呼ばれた伝説の魔法剣『ヘルフレイム』」



 私が満を持して放った剣の名前に、場は一瞬しんとなり、ルーシュ様は私のことを少し呆れ顔で見ていた。


 自己命名ではありませんよ!

 断じて違いますからねっ。



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