440【38】『いのちの宣告』
『いずれ来るであろう選びの時に、蒼を選ぶと其方は死ぬぞ』
……私、今、死ぬと宣告された?
『森は深いから奥に行ってはいけない。魔物に魂を抜かれるからね』
大人が子供に向かっていう台詞。
端的に言えば、森深くに入れば魔物に殺されてしまうという注意文句なのだが。
私が言われた言葉もそれに類すると考えれば、フェーン聖国女王陛下が私に言った注意勧告ということになる。
――でも
『蒼い色を選べば死ぬ』とは?
基本的にどんなドレスの色を選んでも命に別状がないのが基本。
花の色選びも同じだ。
では、なぜ命に関わってくるのか?
それは政に関わるという意味での助言ということになるのだろうか?
私は近くに立つルーシュ様を見上げる。
「私、今、余命宣告をされましたか?」
「余命は具体的に言ってなかったぞ」
「…………」
確かに。後五年とかは具体的に言ってなかった。
「じゃあ、死亡宣告でしょうか?」
「死亡宣告かもな」
「……どうすれば……」
「聞かなかったことにして流すか、より深く内容を聞き、来たる未来に備えるか、軽く聞いて八割方忘れるか、色々な選択肢があるんじゃないか?」
ルーシュ様の異様に冷静な言葉を聞き、私は逆に思考停止。
いや待て待て待て。なんでそんなに沈着冷静。
「……ご冗談をと言って笑うのもありですか?」
「ありだろう。それはそれでロレッタらしい」
私らしいのですか。
気にしたら負けという種類の対処ですか?
でも、悪意の助言でもなさそうなので迷う。
アクランド国王妃陛下に言われたのであったなら、おほほほーと口元に手を当てて流すの一択だったのだが。フェーン聖国女王陛下の助言はどうなのだろう? 味方とは言えないまでも明らかに敵じゃない。言うなれば味方サイド的な立ち位置じゃないのか。
「ルーシュ様のお勧めはありますか?」
「……あるが聞きたいのか?」
ルーシュ様の意見。
ルーシュ様は賢明な人だから聞いて置いた方が良いと思う。
でも。
絶対に必要な助言であるのなら、こんな風に一拍置いた言い方をするのはおかしい。
間髪入れず助言をする筈なのだ。
「私が自分で決めた方が良いということでしょうか?」
「……他の誰でもなく、お前が決めた方がいい。大切な判断を他人に委ねると、それは自分の人生の主導権を失うことになる。魔導師や聖女は勿論、庶民でも自分の人生の主導権は自分で握る。嘗ての大聖女がそうだった。死ぬ主導権すら誰にも譲らなかった。王にも神にも寿命にも」
「…………初代王妃陛下」
「……普段はそんなでもないのだがな。ここぞという時は譲らない。お前の叔母も一緒だろ? 誰の助言にも耳を貸さなかった。アシュリ・エルズバーグを時の回廊から助ける。それ以外は何も考えない。信頼している上の兄に止められても、仲の良かった下の兄に止められても、彼女は譲らなかった。ちょっと似てないか?」
「まさか私にですか?」
「血が繋がっている」
「繋がっていますが」
「ロレッタの父の実妹。繋がりは濃い」
「……濃いといえば濃いですが」
「誰かがお前に紅を選べと助言する。誰かがお前に蒼を選べと助言する。誰かがお前に命に関わるから黄色を選べと助言する。お前はその助言通りに選ぶかと言うと選ばない。死ぬと予告されても選ばないだろう。だから女王にもっと詳しく訊くのも自由、訊かないのも自由。俺から助言を聞くのも自由。その助言を無視するのも自由」
「……貴族にそこまでの自由が」
「本来はないのだがな。ミリアリア・セイヤーズにアシュリ・エルズバーグを探す自由なんて与えられていなかった。彼女は就学を続ける義務があった。彼女を扶養している侯爵も反対だった。味方は一人もいなかった。自分の心だけ持って、家を飛び出したんだろうな」
彼女は彼女の心だけ持って。
心の声にだけ従った。
兄は頼りになる妹思い。
父も大貴族で娘を大切に思う人。
彼女を心から気に掛けている家族達だ。
――けれど
彼女は彼女以外の人間の声には従わなかった。
自分の心だけ。
この場にいる人間は五人。
第二聖女である私。
魔法省六課長のルーシュ様。
アクランド国王太子殿下。
フェーン聖国女王陛下。
そして――
アシュリ・エルズバーグその人。
ルーシュ様はその言葉を私に紡いでる?
それとも――
目の前に居る紫の魔術師?
私達の前に立つアシュリ・エルズバーグという人は、ルーシュ様の言葉を聞く前と、聞いた後で表情を変えるような人ではない。
氷の花の冷たさ。
決して感情を読み取らせない。だけど――
私はシトリー領でのなんちゃってお茶会(年齢層高め)に参加しているので、彼の叔母様への感情は理解しているつもりだ。
ミリアリア・セイヤーズという人が、誰にも耳を傾かなかったのは、その助言がことごとくミリアリア・セイヤーズという人間を守るためのものだったからだ。
アシュリ・エルズバーグを助ける為の助言など皆無。
誰も彼も彼を見捨てるしかないと言ったのだろう。
初代大聖女もそういった状況だったとういうことだろうか?
誰の為の大魔法?
自分以外の何かを守る為?
命をかけた大魔法だから、周りは当然反対するだろう。
むしろ賛成したら逆に怪しい?
「……私、今晩のお茶会でほんのり訊いてみます。その時、自分の心に正直に判断してみます。言葉や寿命にコントロールされないように、私は私の心の声に耳を傾けて」
でもさ?
心の声ってなんだろう?
それは直感と言われるものだろうか?
それとも潜在意識?
私の答えにルーシュ様は、
「そうか」
と一言だけ発した。








