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437【35】『フェーン聖国Ⅳ』



 ……私達三人は、趣ある手作り温泉に入っていたのだ。

 纏めると凄い状況だった。

 服のまま、ちょっと温度上げようか? というノリで小川から拝借した水の温度を上げて泳いだりしていた。


 それはいったいどんな状況なのだと突っ込みたくなる。

 突っ込みたくなるが、真相は意外にストレートで、ただ単に小川の水が冷めたかったから……。

 身も蓋もない理由。

 冷たいと浸かっていられないから温度を上げた。

 それだけだったんだけど、そこからの水ごと転移なんて事象が、荒っぽいこと荒っぽいこと。

 何だそれ? 大魔法? というレベルのことに巻き込まれて今だ。


「私達、何故水ごと転移させられたのでしょうか?」


 聞いとかないとね?

 なんであんなタイミングなんだと問いたい。


「それは至極簡単な話よ、可能か不可能か実験してみたかったからよ」

「……実験」


 何か不穏な言葉ではないか?

 自分たちを題材に実験なんて、危ないわっと言いたくなる。


「……実験とは?」

「水ごと空間転移した人間はどうなるののかと思うての。どうであった?」

「……どうであったも何も、とっても苦しかったとしか。噎せました」

「ふーん。では大丈夫であったということでよいか?」

「良いわけありません。大丈夫ではありません。苦しかったと、噎せたと申し上げました」

「その程度のことは無傷と言うのだよ? 今期の聖女は温いな」


 いや、温いなとか言われた?!


「では女王陛下も一度体験を」


 私の言葉を聞いた女王陛下はころころころころと笑い出した。

 凄く面白かったんですね? なぜ?


「聖女よ、温い上にピントボケした言葉を言うでない。我が闇の魔導師の転移魔法で移動するわけなかろう? 危ないではないか、他人に命を委ねるなど三流の所業よ。ハイエルフの頂点たる我には似合わん」


 …………えー。

 危ないって、似合わないって、三流って。

 こちらは問答無用で水ごと実験的に移動させられたのに!?

 女王陛下の思考回路はけっこう酷いのですが。


 炎の魔導師&王太子殿下&私(聖女)<女王陛下


 命の重さはこんな感じで合ってる?

 アクランド王国王太子殿下とか、けっこう重めだと思うのですけど。


「ふう。可笑しかったゎ。久し振りによう笑った。健康に良いな」


 いや、健康とか?

 ハイエルフが健康を語る日が来ようとは……。


「我はフェーン聖国を一歩も離なれぬ。それは決まりのようなものだから覆らぬ。実際に第五王子を掻っ攫って来るのは下々の仕事。我は一番上に崇められる尊き存在故」

「…………」


 ……確かに尊めですけどもね。

 自分で言うかな?

 やっぱり人間種と思考回路が違うよね。

でも、ここまではっきりきっぱり言われると割と面白い。


「……ちなみに下々とは???」


 聞いておきたいよね?

 下々の者達。

 まさか――


 女王陛下は面白そうに頷いた。


「其方達以外誰がいるのじゃ」

「…………」


 やっぱり?

 そういう流れ?

 私達三人は実働部隊?


「あの、しもじもというのは、まさか王太子殿下も入るのでしょうか?」


 一応ね?

 一応聞いてみないと。

 だってしもじもじゃないし。

 全然違うし。


「当たり前よ。アルフヘイムより下に生まれし者は、その名の通りしもじもじゃ。しもじもは沢山おる」


 ……沢山というか、ほとんどと言うかですね。

 翠の君と女王陛下と精霊以外とかでしょうか。


「……私達、第五王子殿下を掻っ攫いに明日王宮に行くのでしょうか?」

「そうなるな」


 女王陛下は当たり前のように頷く。

 ほうほうほう。

 急だけど、あまりにも急だけど。

 それなのに私は内心で拍手喝采。


 あの第五王子殿下を王宮外に連れ出すことが出来る。

 あの、いつ傷つけられるか分からない環境から。

 あの、いつ毒を盛られるか分からない場所から。


 遠く遠く離れたこの場所へ。

 御連れすることが出来るのだ。

 なんだか良く分からないが、乗っておこう。

 機に乗じる。

 これ大切かもしれない。

 しかも実行部隊は私。

 自分自身で出来るのだ。


「私、水の中でも何処へでもを行かせていただきます」


 私は打って変わって殊勝に答える。

 第五王子の元へ行きたいから。

 脳内予定ではセイヤーズで引き取るつもりでいたが、フェーン聖国の方が良い。

 何故ならばそこは国外。

 王妃陛下も手出しは出来ぬ場所。

 なにせ、女王陛下に言わせれば、王妃陛下ですかしもじもの者として括られるのだから。


 人間界の価値観など、人間種が作った身分など、ハイエルフの前では塵芥。

 精霊樹を目の前にして、私は自分の頭上の世界が広がってゆく感覚に囚われる。


 キラキラと降り注ぐ金色の葉っぱと光。

 綺麗なものなのだと思わずにはいられない。

 きっとこの樹は精霊の源のようなものなのだろう。


 この精霊樹を治すことが出来たらいいのに。

 私は聖女で治癒の魔術師だけれど、精霊の樹に通じるとは思えない。

 もっと偉大で、そして源泉を分かつもののような気がする。

 精霊術と魔術が相反するように、形成段階が違う気がする。


 それでも魔術師の私にも、この樹の葉が降り注いで、纏う空気を変えてくれるのだ。

 ここはそんな樹が守り続ける小さな王国。

 人の住まわぬ土地。

 エルフの国。




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