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429【27】『彼のデザイン』





 シリル様は時々、あからさまな形で目をお逸らしになることがある。

 それはどんな時かというと、シリル様のお母様、つまり現王妃陛下に無理矢理結婚を迫られた後などに、気まずそうにそれが起きた。

 多分、彼の持つ癖のようなものなのだろうと思う。


 今も気まずいのかな?

 グルンと? それはまあ大きく首をグルンとお回しになっていらっしゃる。


 多分、王太子というお立場なのに、聖女を庇ってしまったから?

 それでちょっと合わす顔がない? というような反応なのだろう。

 私は心の中でちょっぴり微笑する。

 王太子殿下としては本当はやってはいけないことをやってしまい、それで周りは避難轟々。

 そんな様子の中、分かっているさ、言われずとも、理解している。というところなのでしょうか。


 思えば王太子殿下は、私が黒い血に感染した時も、迷わず抱きしめてくれたっけ。

 王太子殿下のお立場なら、自分への感染を一番に心配しなければいけないのだが。


 やったことと言えば、それとはまるで反対のこと。

 抱きしめたら駄目じゃないという場面で、それはもう衆人環視の元抱きしめた。

 目から耳から口から傷口から感染するわという。

 あれも聖女としては末恐ろしかった。

 速く離れて下さいと思ったものだ。


「……あの、シリル様、ルーシュ様、助けて頂きありがとうございます」


 私は湧き水のように吹き出している、水の中で二人にお礼を伝えた。

 これ、下から水が吹き出るように噴出したから無傷だったのかな? と謝りながらも考察する。

 本当は水のベッドのような楕円状のものを想像していたのだが、ちょっと違う形状になり驚いている。

 なんでだろう?


「俺達が勝手にやったことだし」


 ルーシュ様がそう言いながら、シリル様に賛同を求めると、彼は再度ふいと横を向いた。


「何拗ねてんの?」


 ルーシュ様に肘で小突かれて、シリル様はルーシュ様を恨めしそうに見る。


「拗ねてるわけでは」

「拗ねてるだろ?」

「拗ねてない」


 拗ねてる拗ねてないとルーシュ様とシリル様は更に小突き合っている。

 いつ見ても仲良しです。

 こんな時でも二人は小突き合いの仲という。

 何か色々通り越して、少し羨ましくもある。


「それよりロレッタ」

「何ですかルーシュ様?」

「光のシールドを展開して、水を貯めて池にしよう?」

「え?」


 池ですか?

 何故池?


 そう思いつつも、大量の水をこのまま流すのも何かな? と思い、私は光魔術に集中する。

 ソフィリアのスラム街で出したあの透明の壁というかバリアというかそういうもの。

 水の質量を支えられるかな? 大丈夫かな? 取り敢えずやって見てから考える?


 やってみてから考えようという魔術師にあるまじき結論に達して、私は集中して光り魔法の魔法陣を紡いだ。このシールド魔法もなかなか慣れてきました。

 使い勝手がよさそうなので、ソフィリアの街から帰宅してから、毎日一回は練習をしていた。

 なので、こう水を囲うように上手いこと四面展開が出来た。

 ちなみに底は湧き水のように出て来るので底には作っていない。


 ただ、平坦な場所と違って地面が斜面なので、斜面の傾斜計算が適当という案配だったが。

 若干水漏れしてるわ。

 即席のかなり大雑把水漏れありの水の囲いが出来た。足は付かない。深いよ?



「ルーシュ様、出来ましたけど、どうするのですか?」

「せっかく濡れたから泳ぐ」

「…………」


 今、この御仁、泳ぐと言った?

 この四メートル四方くらいの即席なんちゃって池で泳ぐと?

 落ちた序でに泳ぐ??


「泳ぐのですか」

「そう」

「そうなのですね」


 聞き間違いじゃなかった。


「泳ぐために池にしたのですか?」

「そう。気持ちよさそう」

「…………」


 気持ちよさそう……?

 そう? そうなの?

 そうだったけ?

 私は首を小さく捻った。


「小川の水ですからね? 確かに気持ちよいかもしれません」


 清流ですから。

 うん。それはそうなのですが。


 桑の実を採っていて誤って落ちた。

 落ちた序でに泳ぐ…………。


 私は行ったり来たり考えた末に、それは王道? かもしれない? と一周回って訳の分からない場所に結論づけた。


 確かに、濡れてしまったのだから、ここは一つ濡れたことを逆手に取って大いに濡れようと。

 そういうことですよね?


「ロレッタの水着がなくて残念」

「ルーシュ様とシリル様がデザインしてくれたものですね?」

「そう。実は夜中じゅう二人で描き続けた」


 何をやっているのですかお二人は?


「結構自信作で、まだ出来ていないのが悔やまれる」


 そこ、そんなに悔やまれますか?


「クロマルバージョンと三毛猫バージョンでしたね?」

「そう。実はついでに他バージョンも注文してあって」


 水着そんなにいりませんよ?

 どうするんですか? 日替わりですか?


「せっかくデザイン画を書いたのに、注文しないなんて、そんな選択肢はない」


 ないんですね? その辺、生粋の貴族ですね。

 

「ちなみに俺のデザインが三枚とシリルが三枚。これはプレゼントだから、枚数は平等に公平に決めた」


 私の水着、公平なんですね。どうもありがとうございます。

 伯父のも入れて九枚ですか? 九日間日替わりで行きます。


「シトリー伯爵の家の中庭に、この池と同じものを作るとかどう?」


 どうと言われても……。

 せっかくなので光魔法の練習という口実で作りますか?


「ロレッタ」

「はい」

「この縁のところをベンチみたいにして」

「…………」


 バカンスですかルーシュ様?

 どうして木から落ちてそんなに余裕?

 いつでも余裕?


 しかし、私は縁にベンチのようなものを付けた。

 だって泳いだ後は座りたいよね?

 一休み的な場所。

 大きめに作った。

 そこにルーシュ様は上着を脱いで置いていた。

 ああ、活用イイデスネ!







誤字脱字報告ありがとうございます!

九月末で書籍化作業が一旦切りがつきますので、アップ回数を上げられればと思っております。

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