427【25】『復活祭?』
失われた古代の技術の復活祭。
言葉だけでも何かドキドキする仕様ですね?
失われた魔法技術?
失われた魔道具?
この世の何処を探してもない。失ってしまった技術。
ロストテクノロジーは誰でもがどこが一抹の寂しさというか、郷愁のようなものを感じるはずだ。人によるかもだけど。
その復活ともなると。
ドキドキする。少なくとも私は。
魔法というのは多種多様な概念があるのだが、当たり前だが使われない汎用性の低いものというのは、自然淘汰されていってしまうのが実情。
それはそうだ。利便性がないものに存在意義を見いだすのは難しい。
しかしながら――
転移門というものは魔法系のアイテムの中でも群を抜いて利便性が高い。なぜなら瞬時に場所移動が出来るのだ。こんなに便利なものはない。誰だって欲しいのではないかな? 積載量に規制はあるけども、考えてみて? シトリー領の特産品だって馬車で遙々王都に運ぶよりも、転移門でさっくり運ぶ方が時間も交通コストも安く済むのだ。安く済めば利潤が上がる。これは商業的に素晴らしい。これだけで商業としては大きなアドバンテージだ。
だがしかし――
転移門の存在はこの世のどこかに消失してしまった。
私が知る限りでは現在実動していないのではないかと思う。
少なくとも公にはそういうことになっている。
それはいくつかの理由があると思うのだが、製造がたった一人の魔導師の手に委ねられていることが一つ。
父が作っている氷点下の小箱と一緒だ。
その道の血統継承者しか作れない。
これはもの凄く狭い技術になってくる。
製造者がこの世に一人しかいないなんて。
その技術というのは、その人物と一蓮托生になってしまうということだ。
それはあまりにも心許なく、狭い技術としか言い様がない。
しかしながら、逆に考えると血統継承者がいる限り、技術はその人の中で続いてゆく。
二代目血統継承者は作れない? ということは起きないのだ。
けれど、今回の転移門に関しては、利便性がどうのというよりは、紫の魔術師のロストという事態と、そして多分政治的な要因、例えば領地同士の安全に関する某の理由。
そんなこんなな理由から、この世の表舞台から消えてしまっていたのだ。
それがシトリー領と、王都で復活するなんて。
各六領の中でシトリー領が先じて転移門を復活させられるなんて。
それは素敵なことじゃないか?
素敵と言うよりは、もっと実益的な部分なのだが。
これは転移門の復活と同時にシトリー領の再生に繋がる兆し。
やはり、紫の魔術師は性格は悪いが腕は良いということか?
いやいやまだ早計だろうか?
でもついつい期待してしまう。
何よりも領主の父よりもやることが大胆で大きい。
しかも利益に繋がりそう。
領主の娘として期待が膨らんでしまうのだ。
我が領は、水魔法の総領家の分家なのだが、闇の領地、すなわち闇の血統継承からの恩恵も直に受けられる。これは大きい。実質エルズバーグ領の益の中枢を手にしたも同然なのだから。
この転移門を利用して、スギナ茶の領産品売買を行うのだ。
行く行くは商会の直営店を持っても良いが、最初はあの魔導師達が集うお茶会の庭というお店で、それっぽい名前で売り出したい。だってあのお店はなんかニッチというか、所謂一般的なカフェとは一線を画する。
つまりは私が作るお茶とかスギナプリンスの絵とかぴったりな雰囲気がする? 付加価値への評価が高いというか、そういうタイプのお店。
「こっそり、三人だけでこぢんまりと秘密の復活祭でもしますか?」
「こぢんまりとした復活祭?」
シリル様に繰り返されて、何かこぢんまりと大々的な復活祭との間に距離を感じた。
この単語と単語は少し矛盾している?
「つまりはロレッタは今晩聖魔法研究の確立と僕らの省エネ魔法研究と転移門の復活祭を同時にしようと言っている?」
シリル様に具体的に口に出して言われると、なぜかとっても欲張りな人みたいだ。
イベントを三つも詰め込んでいるみたい。
大丈夫かな?
忙しすぎるかな?
「復活祭は正式に復活してからの方が良いですかね?」
「いや、前夜祭も気合いが入って良いかもね?」
「いいですね! 前夜というか、前前前前前夜祭くらいになりそうですけども。そこは些末なことですものね?」
「……些末?」
シリル様は少し首を傾げる。
その上で些末というほどでもないが……などと言っているが。
「では、なんとなく三人でこっそりお祝いをして、無事に転移門が設置された暁には後夜祭と行きましょうか?」
私がそう言うと、シリル様とルーシュ様が少し面白そうに笑った。
「是非そうしよう。そうすれば転移門設置という恐ろしい事実からも、なんとなく目が逸らせる」
そうでしょうか?
どちらかというとがっつりと目が合いそうですけども?
「結局のところ、鍵を握っているのはセイヤーズ次官で僕らが心配しても何も出来ない。なので僕らは僕らで復活祭? とやらにこそこそと勤しんでした方が精神衛生上建設的かもしれない」
どこか開き直ったようなシリル様にルーシュ様の生暖かい視線が注がれる。
御主人様とシリル様はこういう遠慮のないところが仲良しさんなのだとしみじみ思う。
「それでは、次は桑の実を摘みにいきましょうか? 幼少期、私が摘んでは食べ摘んでは食べしていたところですよ?」
「ほお?」
シリル様の目が輝く。
「現実逃避とは素晴らしいね?」
「そうですね?」
私たちは微笑し合う。
現実逃避とは転移門のことであってますよね?
そんな扱いなんですね!