426【24】『秘事の原則』
本作のコミック1巻が10月1日に発売されることになりました。スクロールすると表紙を見ることが出来ますので是非どうぞ↓
「ロレッタ」
何か改まった様子でシリル様に名前を呼ばれました。
何でしょうかシリル様。そんなに溜めた感じで名前をね? うん。
お説教系がくるのかな? それ系かな?
「なんでしょうかシリル様」
「秘事とは」
「秘事とは?」
「もう少し耳元で誰にも聞こえないように、そっと囁いてくれるかい?」
「……」
えっと。
「そっと囁くんですか?」
「そう。耳元にそっと口を近づけて僕だけに聞こえるように」
「……」
王太子殿下の耳元にそっと口を寄せて喋るんですか?
難易度高くないですか?
「大きな声でハッキリと滑舌良く喋ってしまうと、風に乗って影に聞こえてしまう」
「成る程」
それは確かにそうですね。
やはりルーシュ様とシリル様にだけ、そっと伝えるというのは理に敵っている
「心得ました。それではもう一度良いですか?」
「?」
「ルーシュ様、シリル様、極限まで頭を寄せて頂いて?」
ルーシュ様とシリル様は端からとても近くにいたのだが、気持ち頭を寄せ合ってくれた。
更に私も頭を寄せる。
大分ぴたりと犇めいている状態だ。
「今からここだけの話をしますね?」
シリル様がゴクリと唾を飲んだのが分かった。
いえ、先程話した内容の繰り返しで新しい情報はありませんので、そこまで構えなくても大丈夫ですよ?
「実は、紫の魔術師様に私が訴えたのです」
「何を」
ルーシュ様が私に目を向けて言葉を即す。
「ゲートを作ってくれと」
「「え?」」
二人共驚いて元凶はまさかのロレッタ?! 等と言い合っている。
いやですよ? 元凶だなんて。そんな悪の発端みたいに言わなくても?
謀じゃありませんし。
「領と領を繋ぐのはセンシティブなことだと分かっているよね?」
シリル様は私に向かって問う。
「王都とシトリー領ですから。そんなセンシティブとまでは」
「そう?」
「そうですシリル様。なぜなら王都といっても王領ではありません」
「……まさか」
「そうです。そのまさか」
どのまさかなんだとルーシュ様から突っ込みが来そうです。
「所詮、兄弟領を繋ぐだけですから。自分の領地と自分の領地を繋ぐだけです。そんな大事ではありませんよ?」
ルーシュ様とシリル様が顔を見合わせる。
意外にロレッタって度胸が有ったんだね? とか。
いやいや何も考えてないだけじゃないか? とか。
声を潜めてこそこそ話している。
目の前にいるだけあって、こそこそ感の無さが半端ない。
「次官はなんと言っている?」
ルーシュ様に問われて私は大きく頷く。
「……まだ相談していません」
「「…………」」
二人は少しほっとした様子で息を吐いた。
「ああ、そういうことか」
ルーシュ様が頷く。
「つまり次官はこの話を耳にしていないと」
「いえ、今頃、耳にしている頃ではないでしょうか?」
「「…………」」
「言っちゃったと?」
シリル様の問いに首肯する。
それはそうです。
言っちゃってる? 筈です。
再度言いますが、悪いことではないですよ?
「大丈夫。次官の判断待ちだ。なんの問題も無い」
ルーシュ様が自信満々に言い放つ。
何故そこで自信満々?
もしかして伯父様が断ると思っていらっしゃる?
「伯父様は頷いてくれます」
私も自信満々に答える。
私こそなんでそんなに自信満々?
「ロレッタの自信はどこからくるの?」
シリル様に聞かれて私は首を小さく傾げた。
「直感です」
「……直感ね」
「僕らも部下としての直感は利く。きっと三日後に僕は王太子のままだ」
「…………」
それは伯父様が許可をしないという意味でしょうか?
「私の直感は凄いですよ?」
「どの辺か?」
ルーシュ様が疑問を口にする。
「なんせ血が繋がっていますから」
「血」
「血です」
血は重要ですよ?
なんていうか近いですから。構成要素が。
「伯父様は二つ返事で許してくれます」
「「…………」」
ルーシュ様とシリル様はお互いに目を見合わせると小さく嘆息した。
「楽しみですね」
行きはフィギュアのお店からの強制転移でしたから、恐怖以外の何ものでもなかったが、帰りは由緒正しき古のゲートで帰ることが出来るのだ。
転移ゲートなどとそんなものはロストテクノロジーの復活ですよ?
わくわくしませんか?
しますよね?
どうですか?
「失われた古代の技術の復活ですね! 本当は領を挙げて復活祭を催したいところですけれども、流石にそれは憚られますので、どうでしょう? もしよかったら私達だけでも、こっそりと復活祭をいたしましょうか?」
「「…………」」
ルーシュ様とシリル様はといいますと、すごーく遠くの地平線の方を眺めていました。
それはそれで綺麗ですよね?