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424【22】『大切な話のその前に』



 湯気の立ち昇るカップを受け取りながら、シリル様は瞳を瞬き、ルーシュ様はティーカップを見つめて固まってしまった。


 ちょっと熱すぎましたか?

 カップが熱を持ちすぎてしまったかも知れない。

 陶器は熱伝導が良いから。


 お茶というのも、やはり飲みやすい温度というものがある。

 それと持ちやすさはまた少し違う。

 でも紅茶はこうぱっと湯気が上がる温度が一番美味しいですよね?

 スギナは違うのだろうけども。 

 

 侍女というのは兎角お茶を入れる機会が多いお仕事だから、やはり茶葉によっての適温を知りたい。   

 好奇心とかそういうのもあるし、侍女としてのスキルアップにも繋がるから。

 その上、水の魔導師としてもかなり詳細に水の温度を扱えることになる。

 これは魔導師として大きな成長になるかもと思う。

 なにせ珍しい分野だ。

 別の言い方をすると誰も興味のない分野とも言うが。

 でも、それこそがフロンティアだ。


 魔法というのは、やはり小さなコントロールを得意としている人は少数派。

 少数派ということは、その分野で頭角を現しやすいということに繋がる。

 水魔導師の差別化ともいう。


「………僕は、水の魔導師が湯を温めたのを初めて見たかもしれない」


 そうシリル様がポツリと呟くと、それに同意するようにルーシュ様が頷く。


「俺も初めてみたな。……そもそもが俺の専売特許というか……」

「そうだよね? 炎の魔術師が基本お湯を作るよね? 大概野外での活動はそうするよ」

「水の魔導師がお湯」

「なんだろう? 水の魔導師がお湯という有り得ない違和感。彼らって水の温度を操作出来たっけ?」

「出来ないと思うな? 出来るのは一点だけ空気中から水変換するその特定の温度のみを体得するんじゃなかったか?」

「そうだよね?」

「そうそう」


 そうそうと言いながら、ルーシュ様がティーカップを持ち替えていた。

 熱いんですね?

 私は慌ててソーサーを差し出す。

 九十度くらいかな? 

 水を足すと温度は下がるけれど、お茶が美味しくなくなってしまうし、迷うよね?


 今度からもう少し低めにしてみようか?

 まだまだ試行錯誤だなと思う。

 茶の世界は深そうだ。


「ロレッタ。僕は知っていたけれど今再確認したよ」

「何を再確認したのですか?」


 シリル様は私をまじまじと見ながら口を開く。


「君が天才魔導師だということを」

「またまた。シリル様、お上手ですね?」

「いやいやいや。お上手ですねって。そうじゃないし」

「コンパクト魔法ですから」

「いや、魔法はコンパクトが一番難しい。僕もルーシュも全然コンパクトじゃないし」


 いや、雷がコンパクトというのは不可能なのでは?

 だってどうやってコントロールする?

 炎の方がまだいけそうだが、この二つの属性魔法はそもそも小さいと消えてしまうではないか?

 属性的に無理がある。


「炎と雷が小さくてもあまり有用ではない気がしますよ?」

「今まではそう思っていたが、今、考えが変わった」

「変わったって……」

「ルーシュと一緒にコンパクト魔法とやらを練習してみる」


 それを聞いてルーシュ様が少し嫌そうな顔をした。


「炎をコンパクトにして何かしたいんだ」

「いや、それは雷にもいえることなんだけど、一見無駄に見えそうな中に有用な何かが潜んでいるという」

「えー」


 ルーシュ様もシリル様も体内魔力量が多いので、コンパクト魔法は向いていない気がする。

 適材適所というか……。そもそもルーシュ様は高い火力が長所であって、省エネ魔法って。


 省エネ魔法は私みたいに体内魔力が枯渇しやすい人の方が向いていると思う。


「シリル様、ルーシュ様の長所はその魔力総量ですよ?」

「そうだけども。でも逆転の発想だよ」

「逆転ですか」

「そう。ぜったぜったいぜったい彼には必要で僕にも少し必要な気がする。僕らは二人で夜な夜な練習する。せっかくシトリー領にいるんだし、実は見えないけど休暇中だし、やはり休暇といえば魔法練と相場が決まっている」



 ……相場が決まっているんですね……。


 分かりますっ。

 困ったことに凄くよく分かってしまいますっ。


 魔導師あるあるですからっ。

 凝り性なんですね、シリル様。


 ルーシュ様は最初は嫌そうな顔をしていたが、今は別にという雰囲気。


「ルーシュ様は夜な夜な魔法練でいいんですか?」

「いいも悪いもないというか、ちょっと興味が湧いてきた」

「えー」

「ロレッタは夜は魔法構築で籠もると言っていたよね? 僕ら二人も籠もって魔法練習するから安心して。いやむしろ三人で籠もってはどうだろう? 僕の別荘で。夕食も夜食も朝食も用意させるよ」

「え?」


 夕食も夜食も朝食もですか!?

 私はバスケット内の素敵なパン達に魅せられていた。

 シリル様の別荘にも行ってみたいし、夕食も、お夜食も、朝食も食べてみたい。

 そしてなぜこのシトリー領でそこまでの食料が調達出来るのか知りたい。

 二度目ですが、朝市とかないんですよ? 需要がないから? 領都なのに!?


 しかし、シトリー領の領都って、村みたいだよね?

 街ですらないのが吃驚だ。

 領都が村規模って。

 そもそも道が……。

 道からないよという話になってくる。

 道はなかなか大変なのだ。

 自分で作らないといけないから。

 領主館の周りは細々と領主が。

 後はそれぞれの家の回りはそれぞれが。

 まあ、家畜が草を食めばそこから道が広がってゆく? のか?


 つまりは草が無ければ道かな? というレベルだし。

 この草原までは馬車が通れるけれど、ここから先は馬かな? とか。


 道を整備しなければ大規模出荷には繋がらない。

 だから、今はそれぞれの村で自給自足になっているし、もしくは隣村と物品交換。

 これが一番現実的というか、地に足のついた生活で、基本変わらない。

 ずっとそうやって人は生きて来たし、生きて行くのだ。



「私、シリル様の別荘に行って見たいです」

「じゃあ、帰りにそのまま行こうか?」

「いえいえそれだと準備が出来ていないので」

「準備って?」

「研究用具ですかね?」


 シリル様は心得たように深く深く頷いた。


「大船に乗ったつもりでいた前」


 何が大船なのですか?


「僕を誰だと思っている?」


 雷の魔導師様ですよね? 私と属性が違うのですが。


「僕の別荘は別名商会の本部。またの名を」


 またの名を?

 二つ名があるんですか?

 少し格好いいです。


「魔法研究所という」



 え!?

 魔法研究所??

 シトリー領に魔法研究所?

 この寂れた領に!?

 え?

 王太子殿下の隠れた別荘が魔法研究所?

 そんな最先端機関だったの!?

 え?


 いやだってね?

 え? となりますよね?

 なんで我が国の王太子殿下の別荘がシトリー領にあるんだろう? というのも甚だ疑問ですが、それでも別荘なら百歩譲ってとなりますが、魔法研究所とキタ。


 えーっ。

 なんて言うか、とってもダイナミックな隠れ家ですね?

 吃驚なんていうレベルではないほどの吃驚加減です。






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