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423【21】『センターストーン』




 王冠のデザインというものは、大概中央にメインストーンを配置する。

 それは基本的に一番大きく、そしてその王国の核になるような、そういった石だ。

 アクランド王国の王冠は中央にダイヤモンドがあしらわれている。

 それはとても大きなもので、世界で現存する最大級とも言われている。

 ダイヤモンド。もちろん王家の石。

 雷と聖魔法を司る家の石。魔法属性を象徴するような石だ。

 そしてその両サイドにはルビーが。

 ああそうなのかと。そこで遅ればせながら得心する。

 中央に王家を象るダイヤモンドが嵌め込まれ、その左右にルビーそしてサファイアと続くのだが、これは王国帰属の序列の配置そのもの。

 貴族界序列二位のエース家を模す石が、王の石の左右に配置されているのだ。

 国のあり方、そのものを指している。

 こんなにも明確に。こんなにも歴然と。


 守りの石は六色。エース家がルビーで、サファイアがセイヤーズ、エメラルドがフェーンと続くのだ。

 

 本物は見た事がないけれど。

 アクランドの王冠は有名だし、肖像画にも描かれてる。

 いつか戴冠式の時に見ることが出来るかもしれない。

 そう遠くない未来。

 今、目の前にいる王太子殿下が即位されるその時に。

 きっとシリル様に似合うに違いないと思う。

 彼は生まれながらに高貴というか、そういう気配を纏っている。

 ソフィリアの街のスラム街でミシェルの姉も一発で看破した。

 高貴なものに違いないと。

 自信満々に言っていた。



「シリル様?」

「何?」

「スギナ王子の王冠のメインストーンはエメラルドにしませんか?」

「翠だからであってる?」

「はい。シンプルで分かりやすいので」

「いいね。ペリドットでも良いけれどね?」

「それも良いですね。先日買ってもらった石がペリドットですし」


 そうなってくるとなんとなく第五王子をモデルにしたくなってくる。


「色彩は違いますが、第五王子をモデルにしてみませんか?」

「それでもいい」

「じゃあ、そうしましょう」


 彼は大分可愛い少年だったので、お茶のモデルにピッタリな気がする。

 そうだよ、王子シリーズでアクランド王国原産のお茶だもの。

 五人の王子っぽいお茶にしたらきっと可愛い。

 もちろん露骨にアクランド王国の王子がラインナップでは肖像権等色々と面倒な事が起きそうなので、あくまでもぽっくが基本だ。二名ほど足りないがそこはそこでその時考えればいい。そもそも今はスギナプリンスしかいない訳だし。



 シリル様がスギナプリンスのデザインを、ルーシュ様が妖精の国を模すような、そんな背景を考えてくれている。ルーシュ様の頭の中に『可愛い』があったことに驚きだ。以前魔法陣を起こす時に描いた絵とは違い、少し輪郭に丸みを帯びている。木も草も何だか可愛くて、虹なんかも描き足している。


 数分後、二人の合作であるスギナ茶のイメージ画が書き終わったので、それで即決した。

 可愛いわ、牧歌的だわで文句なしの出来だった。

 残りのお茶シリーズも二人にデザインして頂こうと心に誓う。


 それはそうと。


「ルーシュ様、シリル様、絵が出来上がった所で、お茶にしながら大切なお話をしませんか?」


 私は草の上にさっと大きな布を敷きながら、手早くお茶の用意をしていく。

 バスケット、私が用意してきたものではないのだが、シリル様にお断りして、並べていく。

 どうしよう? お茶を熱々にした方が良いだろうか?

 私は最近、水の温度を細かく調整できるようになった。

 温度管理の研究。出来る温度もあるし、出来ない温度もある。

 氷点下に入れることは出来ないのだが、冷やして空気中から取り出す原理の応用だ。


 空気中から水を取り出す。そして戻す。これは水魔法でいうところの中級魔法。

 初級に見えて実は中級だったりするのだ。

 ここのラインに水の魔導師としての境界線のようなものが存在する。

 それはこのラインから劇的に難しくなるからなのだが。

 

 ある水をコントロールすること。

 こちらの方が比較的易しい。

 水が無い所から顕現させるよりも、ある物をコントロールして動かす方が楽なのだ。

 初級の初級一番最初に体得するのは、タライの中に入った水に波を作るとかそういったことだろうか? 


 初めて水魔法を体得した時の感覚を思い出し、少し懐かしむ。

 私の父は氷の魔導師だが、水の魔導師でもある為、小さな頃から目の前で魔法を沢山見せてくれた。

 あの魔法が私のルーツだろうと思う。


 幼少の砌に、あれだけ魔法を見せられたのは大きかったなと、今になって痛感する。

 あの目の覚めるような明瞭な魔法陣。

 無駄など一つも無かった。

 その感覚が私の根底に流れている。


 私はポットを持ってそっと魔力を込める。

 父のように無駄のない、シンプルで美しい水の魔法陣。


 ポットに小さな水色の魔法陣が浮かび上がって、控えめに明滅する。

 聖魔法を使うときとはまた違う、水独特の感触。

 頭の中に浮かび上がる、小さな小さな目に見えない物質の元のようなもの。

 そこへアクセスするのが水魔法の特徴だ。

 聖魔法が医学の世界ならば、水魔法は化学の世界のような気がする。


 水色の魔法陣が霧散したあと、私の手の中にあるポットは温かくなっていた。

 大成功。

 この魔法は失敗すると全て蒸発してしまうので、結構虚しい結果になりがちなのだ。

 ポットの中身が全て蒸発してしまうということは、空っぽを意味する訳で、そんなものは冷たいお茶の方が遙かにましということになる。

 やって損するかもしれない魔法。

 それはちょっとねと思うじゃないか。

 執行を迷う魔法なのだ。


 私がカップに温かい茶を注ぐと、ルーシュ様とシリル様が目を見開いて私を見ていた。


 ん?


 お茶が入りましたよ?

 温かい内にどうぞ。


 私は二人に湯気の上がるティーカップを差し出すのだった。





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― 新着の感想 ―
すみません ティーカップがティーアップになってます
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