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420【18】『幾年月』



「……百歳ね」



 ルーシュ様は私が百歳まで侍女を続けると宣言した言葉を反芻していた。

 そうです。百歳ですっ。平均寿命を軽くオーバーして二週目に差し掛かりそうな長さですよね? 我ながら欲張りすぎだったかな?


 でも。


 私は百歳まで生きてみたい。

 だってルーシュ様やシリル様との魔法談義。

 アリスターの美味しい焼き菓子。

 ミシェルをハニーハンター……ではなく、聖女の助手として一人前に育てたいし。

 リエトと各地の魔法ゲートを探す旅にも行って見たいし。

 アシュリ・エルズバーグが思い描いているユートピアの片鱗も見たいし。

 沢山やりたいことがある。

 それは一緒に過ごしたい人が沢山いるからだと思う。

 そんな時間が変わらず続いて欲しい。

 私はそういうものをきっと願っているのではないかな?

 そんな風に思う。

 大切な人達との日常。

 

「侍女を続けながら、弟達を可愛がって、時々ルーシュ様やシリル様と夜な夜な魔法研究をしたいのです。想像するととても楽しそうだから」

「そうか?」

「そうです」

「……俺も」


 そこまで言って、ルーシュ様が私の顔を覗き込んだ。


「お前が二十歳を越えた所が見てみたい」

「二十歳ですか?」

「そう。二十歳の誕生日を過ぎて、二十一を迎え、二十二を迎え、三十歳になって四十歳になって、百歳の誕生日を迎えて、まだまだまだまだまだ魔法の話ばかりしているお前が見てみたい」

「何か凄いおばあちゃん感がありますね?」

「そうだな。その歳になってこそ、魔導師は最強だろ?」

「そうとも言いますね」


 だって有りと有らゆる魔法に精髄することになる。

 越えてきた修羅場の数も違うだろうし、間違いなく凄腕の聖女になっているはずだ。

 今みたいに、ぴよぴよしたひよっこじゃない。

 一人前どころが百人前の賢者になっていそうだ。

 向かうところ敵なしかも知れないよ?

 無双? 私無双出来ちゃう?

 ついでに伯父様に付いて水魔法を極めればハイブリッド聖女という奴では。

 だって水も聖魔法にアシストさせることが出来るのだ。

 それは光りの聖魔法専門の聖女とひと味違う存在になる。

 もしくは今まで光りだけでは治せなかった領域まで……。


「素晴らしいですね。百歳」

「そうだな」

「百歳になっても侍女として雇ってくれますか?」

「百歳になっても侍女をしているんだな?」

「そうですよ?」

「引退とかないのか?」

「引退とか退職とかありません。想像するとあまりわくわくしないので」

「……へー」

「だって退職したら、私どこに行けば? 路頭に迷ってしまいます。ちょっと流しの聖女として生きるには歳が上過ぎませんか? 百歳デビューはちょっとどうなの? と思います」

「安心しろ。退職金を弾んでやる」

「弾まれてもいやです」

「ふーん」

「退職断固反対です。ずっとずっとずっと永遠に続く雇用が夢なのです」

「そういうのが夢なんだな?」

「そうです。変わらない日常に憧れるのです」

「退職金にも憧れるだろ? 色々な領地に旅行に行けるぞ」

「…………色々な領地に」

「そうそう」

「あの、そんなに弾むんですか?」

「まあ、働き次第だけど、エース家に良く尽くしてくれた使用人を無下にする気はないな? 日々生活していけるくらいの金は出す」


 私はきらきらした瞳でルーシュ様を見た。


「夢のある職場ですね?」

「そうだろ?」

「ホワイトです。限りなく白く続く地平のようにホワイトです」

「ホワイトね」

「ブラックの反対です」

「それは分かる」

「労働条件神です」

「それはどうも」

「益々やめられませんね」

「…………」

「百歳まで働き続けることが出来たら、その時は退職について考えてみますね?」

「長いな」

「長いですけども。でもきっとあっと言う間です」

「そうかな?」

「そうですよ」

「俺が何歳か分かってる?」

「百二歳ですね」

「………凄い歳だな?」

「大丈夫ですよ? 御主人様。なんせ第二聖女が専属侍女ですからね? ルーシュ様は世界で一番長生きな御主人様になります」

「え……――」

「大船に乗った気でいて下さいね」

「…………大船」

「そうです。小舟じゃないですよ? エース家の帆船(はんせん)くらいなものです」

「…………」



 ルーシュ様は沈黙してしまいましたが、私は自信満々に言い放った。

 良く考えると御主人様の専属侍女が聖女って良くないですか?

 なかなか旨味ありますよ? お勧めです。

 私は御主人様に向かってにこにこと笑いかける。

 あと八十三年くらいですね?

 さすがに勤続八十三年なら侍女長でしょうか?

 楽しみです。






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