408【06】『魔術師達が集うお茶会の庭へ』
魔導師が集うお茶会の庭。
出来れば花の咲く季節に行きたいな?
晩春でもいいし、初秋でもいいけれど。
少しだけ香る花が良い。
その香りをフレーバーにして紅茶を飲みたいな。
甘い焼き菓子も頼んで、長い長い昔話などを楽しむのだ。
建国語りを読破した面々で、あの時はああだったに違いないとか、あのシーンはこんな意味があったんだとか。大好きな本の話に花を咲かせる程楽しいものはないじゃないか? そこに温かいお茶と甘いお菓子と散りゆく花があれば完璧。
私は目を閉じで建国語りの一部に想像を馳せる。
今日は何処を想像しよう?
紅の魔導師と雷の魔導師がアクランド王国を建国する誓いのシーンがいいだろうか?
それもいいけれど、出来ればもっと何気ないシーンがいいかな?
雷の王が「王冠て重いね?」などと言っている裏話とか、魔法剣を手にして悦にいっているところとか、そういう目に見えないところ。
私は蒼いローブを羽織り、シリル様は白に金色の差し色のローブを羽織り、ルーシュ様は紅のローブ。
アリスターやミシェル達の弟チームも召喚して、「ここ良いよね?」とか、「ここはこういう解釈でしょ?」なんて言い合いながら。
夢想しているだけではなくて、実際にしたいな?
王都に帰ったら。想像だけで終わらないように。楽しい空想が現実に繋がるように。
雷の初代国王陛下はその魔術の圧倒的な力によって国を平定した伝説の人だけど、もちろん庶民の感覚を持ち合わせている人だろう。というか王になる前は庶民だからね? 王冠が重いとか内心で思っていそう。あと肖像画だるいとか? そこを考えると微笑ましいというか面白いというか、少しだけ身近に感じる。
そして決して裏切らない仲間を持った人。一人では成し遂げられなくても七人なら成し遂げられる。友の離反は辛く悲しいことだけど、離反しないと決まった間柄ならそれは理想的な関係だ。理想を魔法で作り出したなら、それはそれで魔法大国らしい。
この国に繋がり続ける血統継承。初代賢者達の血を繋ぐ者達。王や貴族に子孫がいるのは一般的なことなのだが、全てを受け継ぐ血統継承者とは訳が違う。血が繋がっているだけではないのだから。言うなれば血と魔法が繋がっているのだ。連綿と賢者の力が受け継がれている。その遺伝子を通して。その魔術を通して。今の今まで繋がっている。
よく、繋がっているなと思う。
一賢者くらい途絶えてしまってもおかしくないのに。
でも逆に考えれば、人は必ず繋がっていくものだから。
それは人というのはゼロから作られるわけじゃないから。
必ず自分の血の中には百年前に生きた人の血が流れている。
二百年前も三百年前も千年前も。
記録では追うことの出来ない傍系でも血は繋がり続けるのだ。
だから、世界中の何処かには繋がってゆくのかもしれない。
黒の賢者と白の賢者が良い例だ。
特に気になるのは白の賢者の家系と初代王妃陛下。
王妃陛下は子を一人も残していないのだ。
彼女の血自体はそこで失われている。
現、光りの聖魔法の総本山である白の領地は彼女の弟が初代領主となった土地だ。
弟は同じ親の血を分けた者同士ではあるが、それで彼女の血と魔力が繋がった訳ではない。
もしかしたら王妃陛下は亡くなる前に、弟と何らかの遣り取りがあったのかもしれないが、そこは私達には知らされていない。
この初代王妃陛下の弟はほとんど肖像画がないんだよね? 建国語りは作家を変えて何冊も読んだが、挿絵すら一度もなかった気がする。そもそも建国物語に、弟はあまり深く関わってこない。
もしくは関わっていたのかも知れないが、形として残ってはいない。
王妃陛下は理想的な淑女に書かれているのだけれど、実際はどうだったのだろう?
七賢者と共に戦い抜いたのだから、それだけじゃない気がするんだけどな?
結構格闘派だったりしないのかな? どうなのかな? 跳ねっ返りとかさ?
弟ラブだったり? 意外性があってもおかしくはない。
「シリル様、王都に帰ったらまたあのお店に行きませんか?」
「行きたいの?」
「はい」
「じゃあ、行こうね」
「今度はお茶も飲みましょうね?」
「そうだね。二人っきりなんてどう?」
「みんなが一緒がいいです」
「…………そう、みんなね」
「七色のローブを着ていきませんか?」
「いいとも。でも属性通りじゃなくて、仮装がいい」
「仮装ですか?」
「そう普段ならば絶対着ないローブを着た方が新鮮でわくわくする」
「……なるほど」
それは私の場合、蒼と白以外だな。
「私、炎の魔術師になってみたいです」
私は思いつきで言った。
水の魔導師だからか、炎は纏わないし、纏った所を想像した事もない。
とても新鮮だ。反属性というか、そういう意味で。
「……ロレッタは紅のローブを羽織りたいの?」
「はいっ。とっても羽織りたいです」
「へー……」
「ルーシュ様は蒼のローブなんてどうですか、すっごく意外です」
「……まあ、確かにね。ルーシュのことはいいから僕は何色が似合う?」
「え? シリル様ですか?」
白と黄色と金が似合うけど、それ以外ということだよね? うーん。
蒼は着たのを見た事がある。翠も普段着で着ているし。どうかな……。
そうなってくると黒か紫か紅か。
「白が断トツでお似合いになるので、あまり想像が出来ません」
「それはルーシュも紅が断トツで似合うでしょ?」
「……確かに」
その法則でいうと。
「紅のローブでしょうか? その色はルーシュ様の色なので、シリル様が羽織っているのは想像出来ませんね?」
「じゃあ、僕と君はお揃いだね?」
「……そうなりますね?」
「恋人設定にしない?」
「属性が同じなら兄妹設定ですよ?」
「えー……」
「兄と妹にしてみますか?」
「……いや……まあ……ちょっと」
シリル様が考え込まれてしまいました。
紅×紅も可愛いですよね?
私は目を瞑って想像してみる。
でも瞼に浮かんだのは、私とシリル様ではなく、ルーシュ様とまだ見ぬ妹君のマーガレット様だった。
本当の兄妹。実妹に勝る者なしだな? なとど関係ないことに思いを馳せていた。