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406【04】『王太子殿下と私の長い語らいⅡ』




 私とシリル様はお互いににこにこにこと笑い合う。

 シリル様の笑顔って凄いよね?

 光りが零れるようというか?

 明るい日差しが辺りを照らすような。

 笑顔が光りと連動ている。

 これが雷の魔導師のお力なのでしょうか?

 それとも王太子殿下というお立場のお力?


 私は暫くそんなシリル様の笑顔に見とれていた。


「……シリル様、冗談はさておいてですね?」

「冗談では全くないが、置いておくのだね?」

「置いておきましょう。ちょっと信憑性と言いますか、現実問題と言いますか、些かリアル性にですね、欠けるとまでは言い切りませんが、なにか想像しにくいので……」

「想像し難いのは、今、初めて目の当たりにしたからだよ? 徐々に信憑性も増していくのではないかな?」

「……そうでしょか?」

「そうだとも」

「…………」


 本格的に脇に置いておこう。在らぬ方向に舵が切られる前に。手遅れ感もあるが。まあまあまあ、王妃陛下の策謀もある事ですし、あまりこんがらがっても身動きが取れなくなってしまう。そういう時はシンプルな方がいい。シンプルなまま置いておこう。きっとそれが賢明。私は自分が転移してしまってからのその後が若干気になっていたのだ。それを確認したい。


「シリル様? 突然の魔法陣出現と転移起動に対して、お店はどうなってしまったのでしょうか?」


 私がいた『魔導師達が集うお茶会の庭へ』という古き時代を彷彿とさせるような、あの独特の空間、個性的なカフェ。店内で魔法が展開し、人が一人消えてしまったのだ。ただではすまないと思う。というか大騒ぎだろうという話。



 シリル様は胸元をごそごそと探って一つの包みを取り出した。

 柔らかい布で包んである何かだ。


「これ、何か分かる?」


 私は首を左右に振る。

 分かりませんけども?



「君が転移間際に『欲しいです欲しいです欲しいです。シリル様、お願いっ』と切望した物だよ?」


 いや。言ってない。言ってないよ? 私そんなこと言ってません。

 全然違くないですか? 言葉回しというかが? 


「…………シリル様? 私はしっかり憶えているのですが。転移直前に言った言葉ですよね? 可愛いあの子のことではありませんでしたか?」

「んふふ」


 んふふってなんですか?

 可愛いですよ? シリル様。


 でもあの子なのですね? 私が侍女のお給金で買おうとしたあの子。魔法省のアルバイトで買おうとしたあの子。可愛い可愛い御神体。


 私はわくわくしながらシリル様の手元を見ていた。

 徐々に布が解かれてゆく。


「はい。これを君に」

「…………」


 ちがっ。

 違うよね?

 これは愛しいあの子ではありません。


 布が解かれて現れたのは、可愛い御神体の硝子のあの子でもなんでもなくて。

 最後に見ていたあの七賢者のフィギュア。

 私を足止めした現代版の七賢者というか、シリル様とルーシュ様にそっくりだなと思った賢者のフィギュアだ。対である雷の賢者のフィギュア。つまりシリル様にそっくりな……。


 …………何がしたいのでしょうか? シリル様は。

 具体的な目的が?

 私にこの雷の賢者のフィギュアを渡してどうする?


「……あの? シリル様?」

「なに? ロレッタ」

「これですか?」

「そうこれだよ」

「…………」


 私は初代雷の賢者、つまりアクランド王国の建国王なのだが、そのフィギュアをしげしげと眺める。


 格好いい。

 文句なく。

 文句などありよう筈もない。


 フィギュアの真髄は全ての角度において鑑賞可能な事だ。私は回すように眺めた。

 俯瞰もなかなか良いものだが、やはり建国王と言えば世界を睥睨するような角度、そう煽りだろうか。威厳があり王らしい。人の上に立つ者。この角度がこのフィギュアには一番似合う。


 そしてこの手に持たれたソード。建国王がいつもその肌身離さず持っていたといわれる初代黒の魔術師の最高傑作、柄に黄色の宝石が埋め込まれた魔法剣。これがもう痺れるほど格好良いのだ。私はその剣に恐る恐る触れる。取れるのかな? うん。動くね? 良い仕事するなー。本当に細かくて精巧でよく分かっていらっしゃる。


 私は剣だけを取って掲げてみた。

 この剣は肖像画に描かれた剣のまま。

 本物そっくり。出来いいよね?

 しかも柄に硝子玉が……。


 いや待って?

 これ水晶かな?

 黄色の水晶。シトリンでは?


 私は剣の柄に埋め込まれた黄色の水晶をじっと見る。

 魔法を流して確かめたい。

 でも流してはいけない気がする。


 ――そう


 この小さな水晶は。


 私は顔を上げてシリル様とフィギュアのソードを交互に見る。

 この水晶は既に刻まれている。


 何がと言えば、それは主が刻まれている。

 つまり(あるじ)のいる石。囲われた石。  


「……シリル様、このシトリンに魔力を込めましたか?」


 シリル様はそっとお笑いになる。


「それは込めるでしょう? そこに黄色の石があり、そしてそれを贈っているのだから」



 あ、今初めてシリル様が黒く笑った気がした。

 これが王太子殿下の笑いでしょうか?




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