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400【36】『ポーションProgramⅣ』



「理論は確立したか?」



 彼の低くて硬質な声を聞いたとき、私は頭が急速に冷えていくのが分かった。


 ――私


 就寝着のままこの人の前に駆けてきてしまった。

 今更ながらにどうしよう?

 そうは言っても逃げも隠れも出来ないのだが。

 でも、一体闇の血統継承者の前でどうすれば?


 一端出直す?


 でも出直すという空気でもないよね?

 一息に言う?

 言っちゃう?

 どうせ遅かれ早かれ言わなければならないのだ。

 ならば、今がその時。

 そもそも私は言う気満々で来た訳だし。



「…………出直しましょうか?」

「(怒)」

「一言で言え」

「一言では言えません。その上、上着を着て来なかったので、ちょっと肌寒いです」

「(怒々)」

「…………長くなります。とんでもなく。最後は座標の確認まで必要になってくるかと」

「……ふーん?」

「メモの用意は良いですか?」

「(怒々々)メモの用意はいつでも出来ている」

「お茶の用意はいいですか?」

「(怒々々々)お茶の用意はお前がして来い」

「ですよね?」

「ついでに、着替えて来い」

「……それはやっぱり出直して来いと?」

「出直すというか五分で戻って来い」

「ぎりぎりですね?」

「そうか?」

「そうですよ?」

「行って帰って五分なのに、着替えとお茶の用意を考えると十五分くらい掛かりそうですよね? そもそもお茶って……エース家のように茶葉が揃っていないので、スギナ茶でしょうか? 水にしますか? 水なら魔法で一発ですし」

「……水にしよう」

「お湯というのもありですかね?」

「どっちでもいい」

「分かりました。私はあなたに喋ったあと、細かな調整の為に籠もりますが、あなたはゲートの設置を急いで下さい」

「間に合わないな?」

「え?」

「第五聖女の元に行くのだろ?」

「その通りです」

「間に合わない。そして王都には行かない。執行はこちらでする」

「第五聖女をシトリー領に呼ぶと?」

「そうなるな」

「…………公爵閣下が許すでしょうか?」

「あちらに執行地の選択権はない。やるかやらぬかそれだけだ」

「……分かりました。では私が彼女を説得します。第三王子が着いてくるかもしれませんが、そこは?」

「聖女は多い方がいい。第四聖女も連れて来い」

「補佐で?」

「そうだな。補佐でもあり修得準備の為でもある」

「……修得ですか?」

「そうだ。お前はまさかお前にしか出来ない魔術にするつもりか?」

「……そんなことはありません。ですが――」


 私は少し言い淀む。


「……失敗すれば、脳神経に傷が――」

「それはお前も同じ条件だろ?」

「そうですが」

「第三聖女と第四聖女には出来ないとでも言うのか?」

「そんな傲慢なことは思っていません」

「じゃあ、失敗するような施術は王子にはさせられないとか過保護なことを抜かしているのか?」

「…………」

「医療執行とは、どの道そういった部分がある」

「ですが、聖女に失敗は希です」

「それは、失敗した瞬間に修復できるからか?」

「……そうです」

「つまり聖魔法の同時展開が必要なんだな? それを第三王子と第四王子は修得していないということか?」

「…………」

「温いな? 温すぎる? 昼間のスギナ茶よりも温い。先輩のお前がそんなだから後輩が成長しないんだ。もっと厳しくしつけろ」  

「厳しさで人は伸びますか?」

「甘やかしで伸びないことは確実だ」

「彼らは甘やかされた王子ではありません。『甘さ』を持っているだけで、『甘やかし』とは違います」

「どう違うんだ?」

「どうというか、『甘やかし』は我が儘を抑えられない自己中心的な人格を形成しますが、『甘え』は適宜息抜きの方法を熟知しているだけというか」

「ほう?」


 「ほう」とか言われたって、ここには明確な違いがある。

 第二王子殿下が甘やかされた人間で、第三王子と第四王子は厳しい教育の中で、可愛がられた王子という感じだ。全然違う。そもそも第二王子殿下は甘やかされて、愛されていたかもしれないが、生まれっぱなしだ。成長すれば困るのが目に見えていたのに、その部分は放置された。教育というのは凄い精神力と時間を要するのだ。する方に。信念の強い親でなければ諦める。王妃陛下はその部分では高いレベルの胆力を持っている。そう、目的は別にしても、彼女は自分の精神力の多くを子育てに注いだことは間違いない。やり方はあっているとは言えないが、雷の魔導師の誕生の前に、彼女は真名を一時的に晒し、学生を引っ張りだし、その上ロストさせるという残酷極まりない行いをした。その部分一つとっても、自分を最優先にしているわけではない。たぶん、シリル様を一番優先している。そこが彼女の怖さでもあるのだか。



「で?」

「え?」

「何日で纏まるのだ」

「三日で」

「三日か?」

「それくらいかかると思います」

「急ごう」

「何故ですか?」



 紫の魔術師は私の言葉に少し笑った。



「とんだ伏兵が来るからな?」

「え?」






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