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【004】『涙の三日間(色々枯れた)』

 私は目頭を押さえながら、顔を隠すように下を向いて駆け出した。

 ええ。ドレスの割には早く走れましたとも。そんな自分を褒めてあげたいわ。

 私の卒業パーティーは散々なものとして終わった。もう思い出したくも有りません。


◇◇ 


 私は寒さに震えながら王立学園寮まで走って帰った。

 せめてショールが欲しかったけど、そんな余裕はなかったし、馬車も待たせていなかったし、辻馬車を拾うなんて事もとうてい出来ない。だって顔は涙でぐちゃぐちゃで、人と乗り合うなんて勇気もなかった。ただただ早く帰りたかった。そして誰も居ないところで泣きたかったのだ。


 パーティー会場は針のむしろのような所だった。貧乏伯爵令嬢に手を差し伸べる者などいない。皆が皆好奇の眼差しで私の一挙手一投足を見ていた。満座の中で王族に指を指されて、こっぴどく振られる人間。その姿を興味本位で見ていた。


 私は頭から毛布を被って丸くなる。ドレスとネックレスは帰ってすぐに床に脱ぎ捨てた。今は寝間着姿でベッドの中だ。私が何をしたというのだろう? 卒業生の晴れの舞台であるダンスパーティーで衆人環視の下、婚約破棄を一方的にされるなどあんまりではないか……。生きていけない。生きていく場所がない。


 その日は明け方まで泣き明かした。そのまま、三日三晩くらい泣き明かしたように思う。三日目には涙も涸れ果てた。そうすると忘れかけていた現実が目の前に迫ってくる。私が住んで居るのは学園寮だ。つまりは学生専用の寮で、そして卒業生は卒業後一週間でこの部屋を明け渡さなくてはならない。人生詰んだよ? どうしよう……。


元より貧乏領地には帰れない。お父様お母様になんと言えば良いのだろう? 私が第二王子殿下の婚約者になった時、諸手を挙げて喜んでくれたのに。あんまりにも申し訳なさ過ぎる。領地に真実が伝わるのが怖い。



 然りとて元婚約者は簒奪者と浮気中。今頃きっとウフフアハハと楽しそうな時間を過ごしているに違いない。二人の間を引き裂く邪魔者を完膚なきまでに追い払ったんですものね。晴れて相思相愛の恋人同士ということになる。もしこれが巷で流行っているロマンス小説だったら、私は多分悪役令嬢の位置ではないかしら?


 そこまで考えると、枯れ果てた筈の涙がこんこんと湧いてくる。二人の間を邪魔しよう等と思った事は微塵も無くて、ただただ決められたレールに乗っていただけだ。それも自分で決めたレールじゃない。国が決めたレールだ。しかしながら、そのレールから突き落とされてしまった。私には何もなくなってしまったのだ。


 婚約者も。明日からの生活も。決められた未来も。どうしたら良いんだろう?

それに比べてココ・ミドルトンはやり手だわ。自分の武器を良く理解していて、婚約者のいる第二王子をその魅力で落とした。只者じゃない。普通、婚約者のいる人間を恋のターゲットになんて選ばないものだ。


 教養科に在籍している以上、魔力はないだろうと思うが、聖女でも魔術師でもないのに王子妃というポジションを射止めに来た。その強さというか権力欲というか真実の愛? というか全部なのかもしれないが、不可能を可能にした訳だ。しかし真実の愛とやらは側妃では賄えないものなのかな? そうすれば誰も傷つかずに済むのにな。


 魔力というのは王族と高位貴族に遺伝しやすい性質がある。遺伝しやすいというのは語弊があるかも知れないが、つまり建国期の六侯爵家が強い魔力を有する家系な訳だ。元々庶民に魔力が高い家柄があったら庶民に遺伝するのかも知れないが、黎明期に高い魔力を持っていた人間が王の賢者になった。その者が貴族になった訳だから貴族に魔力待ちが多いという結果論になる。


 そして魔力持ちの貴族は魔力持ちの令嬢と結婚したがる。そして魔力持ちの子供が生まれるという寸法。もちろん長い歴史の中、例外など五万とあっただろうが、そういう傾向にあるという話だ。王家がその身の半分に必ず聖女の血を取り込んで来たのもその証。


 そして魔力が遺伝している証として、髪や目の色に特徴的な色を顕現する。例えば赤髪に生まれると魔力属性が火となる事が多い。私は聖女で属性光。更に光と相性の良い水が顕現している。故にシルバーブロンド側に振り切っているのだろう。

 水魔法を使う人間は碧や水色になりやすいのだが、光が混ざるとシルバーとなるらしい。二属性が出ている聖女は私だけなので、正確な所は分からないが、細かな色味までとなると、それこそ代々の血を考えなくてはならなくなる。


 ちょっと見ない色だからか、他人に避けられる事避けられる事。やれ性格が悪そう、やれ冷たそう、取っつきにくそう、気位が高そう。別にそんな事無いって! どちらかというと庶民的ですら有るのに。悲しい。友達すら満足に出来なかった。


 そうだ心を入れ替えよう。取っつきやすい伯爵令嬢ロレッタ・シトリーになるのよ。特徴は貧乏。特技は擦り傷を治すこと! 婚約破棄が玉に瑕だけど、お安くしときますよ? どうですか? よく働きますよ!


 ……当面、私の糊口をどう凌ぐかという事だ。早いところ次の寮? を探さなければ。四日後に野垂れ死ぬ。貯金はドレスで無くなってしまったし。換金する? 兎に角、既製品だが売りに行こう。靴もアクセサリーも。気持ちよく売り払って一から出直そう。持っていたって悲しいだけだ。ついでに売れるものは全部売ろうか?

そんな気分だし。


 私に何が出来るか分からないけれど、出来ることから探してみよう。


 つまり就活だ。結婚予定だったのでまったく就活をして来なかったが、明日、職業安定所に行こう。このさいメイドでもありだろうか? 贅沢は言っていられない。住み込み三食付きが第一条件だ。そうで無ければ路頭に迷うわ。


 そこまで考えるとやっと深く息が吸えるようになった。

 長くて苦しい三日間だったけど、どうにかやり過ごせた。こんなどん底なんだからこれ以上下がる所なんか無いはずだ。なんせ卒業記念パーティーで婚約破棄をされたのだから。恥もここまできたらかき捨てね。


 今日は沢山眠ろう。そして明日、自分の人生をリセットするのだ。もう身分の高い男には頼るまい。金と自分を頼りに生き抜くんだ。そして熱りが冷めたら貧乏伯爵家に帰って、ひっそりと生きよう。もう二度と夢は見ない。 





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