397【33】『ポーションProgramⅡ』
本日『紅好き。3』の情報が公開になります!
発売日は4/1。コミカライズも同日四話一挙配信になります。
漫画家は小説版のイラストレーターと同じ鳴鹿様です。
細胞をコピーして増やす???
そんな薬草はない。
それは即答だ。
逆にあったら大変だよ? という感じだよね。
なんというか………よくある民間的な考えとしては、体内の劣化速度を遅らせるものが一般的ではないだろうか? なんとなくというレベルの。あの人若く見える? どんな生活しているのかな? 豆とかよく食べるよね? というそういう風なイメージ。
だが……基本生き物は細胞のコピーを繰り返して生きている。その身の何パーセントかが常に刷新されているのだ。肌などは一番目に見えて分かりやすい。血液も百日周期くらいで徐々に新しくなっている。つまり自身の体内で細胞の更新が行われていることになる。
一から理論立てるのではなく、体に備わった機能をアシストする方向で考えないと。
そもそも大前提として生きているということは、息をしていて、息をしているということは、体は未来に進んでいるのだ。これを止めることは不可能。
私は大きなすり鉢と摺子木を前にして茫然と立ち尽くす。
折角ある道具ですが、これ使うのかな?
そもそも。
私が裁きの間で起きた事件により、時の止まった空間に放り込まれたのは、自身が黒い血に感染していたからなのだ。つまり感染症の抗体作り。抗体は感染の元になる病原菌が嫌う薬を見つけることに焦点が当てられる。この世にある無数の植物から、菌が嫌うものを探すのだ。これは地味だがローラーしていくしかない。出来るだけ可能性の高そうな薬草からローラーしていき、次は薬草を複合して行う。地味で根気がいる作業だが外せない。
その時に何かきっかけになる着想のようなものが必要になったりする。そういえば、この動物は感染しないよね? とか。あの病気に一度かかると罹患しないよね? しても軽く済むよね? というような発想。そうでなければ無限の選択肢と組み合わせが存在してしまうから。
でも今回は?
第五聖女の目を見えるように治したい。
けれど――
中枢神経系というのは一度損傷を負うと自然治癒はしないといわれている。
末梢神経とは違うのだ。
その違いによって人は苦しむ。
視神経は脳神経になる。
一度傷が付くと、治らないと言われる部位。
しかし、細胞が生きてさえいれば、復元魔法が可能だ。
時を戻す魔術ではなく治す魔術。
死んだものを生き返らせているわけではない。
問題は死んでしまった細胞は復元出来ないことにある。
死んだ細胞は復元出来ないから、生きている細胞からコピーしたいのだ。
細胞コピーは随時行われているので、少しくらい貰っても健康機能上範囲内で納められる。
そしてそれは一番近い細胞から貰うわけだけど。
場所が近いのではなく、作用が近いもの。
そう例えば脳などから。
どうやって??
私は、時の止まった空間で何度も何度も何度も、側に空間の魔術師がいればいいのにと思ったものだ。そうしたら飛躍的に研究が進むのにと。
そして今、正にその望んだ瞬間にいるのだが…………。
「……あの、時の魔術師様」
「なんだ、第二聖女」
「私、理論が確立しておりません」
「ほう。予想通りだな?」
「なので、今、頭の中にある不完全なものを全部喋ります」
「…………」
「いいですか? 私はとにかく思い付いたこと、可能性のありそうなこと、一見関係ないことなどと順序立てずに思い付いたまま一気に喋りますので、あなたが纏めて下さい」
「は?」
「そもそもあなた頭が良いじゃないですか? 多分国で一番くらい。だって古の賢者の知恵が何代にも渡って頭に入っているんです。私なんて小娘みたいなものじゃないですか?」
「……小娘?」
「そうですよ? 自分で言うのも何ですが小娘に間違いありません。今回のポーションは共同作業ですから、こうなんと言いますか、私が聖女としての材料を提供して、あなたが纏めるで良いんじゃないでしょうか?」
「おい」
「兎にも角にもこうしていても埒が明きませんから、私べらべら喋りますんで、黙って一昼夜くらい聞き手に回ってください。いきますよ?」
「…………」
私は時の魔術師の返事も聞かずに早口で喋り始めた。
彼は彼で一瞬茫然としていたが、椅子に座ってメモなどを取りながら、聞く体制に入った。あらやだ、彼、もしかしたら神官長に続きスーパーアシスタントかもしれない。いやそうと願って喋ろう。私に出来ることをして、少しでも前に進まなくては。私は自分を信じているのか、時の魔術師様を信じているのか、ただの状況的なものなのか分からなかったが、喋って喋って喋り尽くそうと心に決めた。勝手に。








