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388【24】『商会加速。』





 お茶は瓶に入れて発売しようか?

 それとも紙?

 紙なら風の領地。瓶なら土の領地に大量発注することになる。

 最初だけパッケージ売りして、その後はグラム売りにすれば、容器代がかからない。

 でも初期投資がかかってしまう。最初から量り売りにしようか? 容器代を先行投資する資金がない。もしくは『魔導師達が集うお茶会の庭へ』という凄い名前のカフェに卸させてもらおうか。ついでに商品の量り売りもしてもらう。それで利潤が出たら瓶を買うお金に回せばいい。もしも全然売れなかったとしても、そもそもが只で手に入れた雑草なわけで、何の問題もない。試行錯誤するだけだ。

 非常にローコストな出だしで、シトリー領でもなんとかやっていけそうだ。


「リフレッシュが添加されているもの大きな売りですが、どうでしょう? お茶らしからぬ副産物を付けては?」

「……副産物?」


 私の提案にアシュリ・エルズバーグが眉根を寄せる。今から詳しく説明しますよ? 待っていて下さいっ。


「商会メンバーにですね、リアルなものを大変可愛い絵に仕上げて下さる方がいるのですよ? スギナの小人(こびと)などをスーパーデフォルメ画で描いて頂いてですね、『スギナの子』とか『スギナの雫』とか『スギナ娘』とかですね、お茶を擬人化すると心惹かれるのではないかと思います」


「……………」

「擬人化ですっ」

「ぎ?]

「擬人化」

「……ぎじ」

「擬人化です」

「お茶を???」

「擬人化」


 何だろう? 壊れた会話にみたいになってしまっている。

 お茶をキャラクター化するんです。

 お茶山に生きるお茶一族のすーちゃんみたいな……。


「つまり……お茶の世界を造っていくといいますか、妖精さんの国の物語と言いますか」

「……へー」


 あ、アシュリ・エルズバーグが遠い目をしながら思考を放棄した。

 思考というか、理解というか、お茶の妖精物語へのアクセスをやめた?

 精霊みたいに草に宿っているイメージで可愛いのに。


 人はどんなものに『飲みたい』という感情が湧くのだろう?

 私はやっぱりキラキラした雫のようなものなのだが……。


「取り合えず『スギナの雫』が抽出物っぽくていのではないですか? 暫定『スギナの雫』で…………」


 そう言ったらアシュリ・エルズバーグは顎に手を当てて考え出した。存外に本気です。

 擬人化で固まっていたはずなのに、そこはそこらしい。


「『スギナの風』とか『スギナの香り』とか『聖スギナ茶』などもいいのではないか? リフレッシュを添加するのだから爽やかさみたいなものを感じさせたい」


 どれもありですね? 聖茶シリーズとしてもよいかもしれない。明らかに普通のお茶とは違うと分かる。しかも『聖』を頭につけると、いかにも聖魔法を連想するし。プラシーボ効果も上がりそう。いや、有効物質は間違いなく含まれているのだけど、相乗効果とかそういうことで。


「いっそ、スギナという雑草っぽさをすっぱり取って、『翠の風』とか『翠の宝石』とかにしませんか、一気に垢抜けましたよ?」

「……確かに垢抜けたな?」


 うん。思い切りって大切ですね? スギナの『ス』すら跡形もなくなった。幻?


 ついでに色が前面に出たことによって、何かアクランド王国らしくて親近感が湧く。ちょっと翠の領地のお茶っぽのが玉に傷だ。『翠の風』はやめた方がいいかも。そこまで行くと、もうシトリー領産とは思えないから。


 いっそのこと、七色のお茶が揃えば可愛いかな? 第一弾はスギナだけども、のちのちこの方向で増やしてみては……。

黒豆茶は『黒の雫』とか。紅茶は『紅の雫』とか、とうもろこしは『黄色の雫』とか。

 あれ? 売れそうじゃね?


 そうと決まれば、シリル様。シリル様とイラストを練らなくては。

 私は翠の髪をした小さな精霊がスギナを手に持ている絵などがよいと思っているのですが。

 

 アレ?

 

 聖茶シリーズじゃなくて、精霊茶シリーズとした方が売れそうな気がしてきた。

 でもそれだとますます翠の領地の特産物っぽくない?

 シトリー領の領主館に生えていた雑草が、なにか雰囲気のあるお茶に。

 どうしよう? 盛り過ぎ? どう?


「……私、倉庫のスギナに纏めてリフレッシュをかけてきます。そして王都に帰ったらその足で『魔導師達が集うお茶会の庭へ』に茶葉をおいて貰えるか交渉してみます」


 最初は買い取りじゃなくて、一キロくらいお試しで置いてもらおう。その上で動くようなら、キロで買い取って貰おう。一キロいくらで売ろうか? 原価計算しなければ。原材料と人件費と聖魔法代? 庶民にもギリギリ買える値段にしたいけど、軌道に乗るまでは貴族だ。貴族に気に入って貰わないと。


「ロレッタ?」

「はい? 何でしょうかお父様」


 私がアシュリ・エルズバーグとスギナ茶の件で白熱している横で、父と風の領主様は、私達の様子を窺っていた。


「絵が上手な知人というのは、ルーシュ・エース? それとも」


 私は父のしようとしている質問に合点がいき、大きく頷いた。


「シリル様なのです。シリル・エース様。エース家の親類の方ですよ?」

「…………うん。王太子殿下ね」

「はい。傘を差した猫の絵などがとってもお上手で」

「……へー」

「私のイメージとピッタリなのです」

「……そうなんだ」


 そういえば?

 私は雪玉草のポーチの中をゴソゴソと探す。

 このポーチは見かけより中身は深くて広い。マジックバックだ。

 えーと。シリル様に描いて頂いた絵。

 絵というか魔法陣。

 宝物にしようと思って肌身離さず持っていたんだよね?

 見つかるかな?

 私は二、三分ごそごそごそごそとポーチの中を探る。

 探った後で、ふと気が付く。

 ポーチじゃない。ローブの内ポケットだ。

 私はローブのポケットから小さく畳まれた魔法陣を取り出す。

 これを見るとなんだか幸せな気分になるんだよね?

 黒猫が長靴を履いて虹を歩いているのだ。

 多分、猫形クロマル。

 可愛らしいです。最高です。宝物です。


 そこまで脳内で思ってから、この絵をつけたらこの雑草茶は売れるっ。と天啓のようにひらめいた。売れると長靴を履いた猫が言っています。自信あるよ? 根拠なしです。






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