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382【18】『雪玉草のポーチの中』


視点がロレッタに戻ります!



 私は強制転移によって、いくつかのポーションを落としてしまったのだが、大切な雪玉草のポーチはローブ内側、腰に着けられている。 落とさなくて良かったという思いと、これは絶対に落とす筈がないという確信がある。



 私はそっとポーチを撫でる。

 ふわふわ。

 最高の手触り。

上部に三角の耳がオーダーメイドで着けられていて、この世にたった一つしかない特別なポーチだ。大好き。お気に入り。一生使い倒す。


 私はもふもふもふもふ一頻り撫でる。

 撫で回す。どんだけ撫でても足りない気がする。


 君が始点なんでしょ?

 そうなんでしょ?

 いるよね?

 だって自作のマジックバッグだものね?

 まさかまた開発していないよね?

 広くなっていたらどうしよう?

 限界とかないのかな?



 私はそーっと中を見るために入り口を開けた。

 あ、深淵。相変わらずの。


 開けたほんの一瞬の隙に黒い蟲……ではなく、小さな小さなスライムが飛び出してきたのだ。


 やっぱりクロマルっ。

 極小のクロマルがこっそり付いて来ていたんだね?


 私はクロマルを見ながら、そうだろう、絶対にそうであるはずだ。そうでなければ座標の始点が確定しない。始点はあの『魔術師達が集うお茶会の庭へ』という看板が掲げられていたカフェとも考えたが……。

 あのカフェは大変怪しい。怪しいがゲートとしては確定出来ない。

 クロマルが居なければゲートとして確定出来たかもしれないが、クロマルがいた以上、未確定になる。


 賢者と使役魔物は繋がっているから。

 クロマルの主人はアリスターで間違いないのだが……、クロマルが初代闇の賢者の使役していたブラックスライムと同じ個体だった場合、共有される可能性がある。そもそも血統継承者に使役されている個体かもしれないのだから。



 実に怪しい。


 私は飛び出してきたクロマルを追うようにして走り出す。

 ああ、見失いたくないのだが、速いわ、小さいわ、跳ねるわ……で。


 ぽよんぽよんが!


 私は壁やら床やら天井やらを対角線で弾みながら進んでいく極小のスライムを追いかける。

 私、このぽよんぽよんとした生命体を追うのは2回目だね? と内心で思う。

 あの時は森で、大きさは今よりもずっと大きかったが。


 状況的には森→領主館、足元はフラットな上に勝手知ったる我が家。

 しかし跳ねる面が三百六十度。

 

 大きさ→極小。振り切られそう。小さな蟲サイズだから。

 ということで、プラマイゼロだろうか。

 

 しかしあの時は一人で追っていたのではなく、シリル様が一緒に居てくれた。

 私は後ろを振り返る。

 

 リエトと影が……追いかけて来ている筈?

 と思ったが、彼らは私に向かって仲良く手を振っていた。


 「!?」

 

 そうなの!?

 そうくる?

 なんで!?

 皆で追おうよ?


 追う空気とタイミングじゃなかった?

 私は首を捻りながらも、そんなに長く彼らを見ている訳にはいかない。

 というか一瞬視界の端に入れただけ。

 そんなことより――クロマル


 クロマルは廊下の側面で大きく弾みを着けると、扉下の隙間から忍び込むように部屋の中へ入ってしまう。


 私は慌てて部屋の位置を確認し、迷わず扉をノックした。

 本当は自分の実家だし、ノックとか? しなくても大丈夫は大丈夫なのだが、中から人の気配がしたんだよね? 侍女の性というか、貴族の性というか、クロマルを追っていても優雅な感じでノックをした。習慣って強固。息を急いで整える。ついでに髪も整える。


 ここは領主館の応接間というか、お客様を案内する部屋で、窓が大きく明るい部屋だ。庭が一望出来る。草でボウボウだけども。あの庭を一望できてもな……。などとほんのり思う。   



「入りなさい」



 中からそんな声が聞こえ、ああ、お父様、ここに居らしたんですね? 結点にいて欲しかったと心から思う。思いながらもそんなことはおくびにも出さず、貴族令嬢の所作で、「失礼します」と言って入室した。そして一瞬で体が固まる。


 お酒? お茶? 三人の大人が昼間から飲んだくれている訳ではないが、寛いだ感じで座っていた。


 お父様。お父様のシトリー伯爵。

 ここはシトリー領でシトリー伯爵の領館なのだから、父がいるのはおかしいことじゃない。


 それとアシュリ・エルズバーグ。彼がいるのも知っている。

 だってソフィリアの街で別れた時に、彼はシトリー領に引き籠もって領政をすると宣言していたのだから。



 でも――



 ここにいるはずのない三人目。

 三人目の人。

 あの人は人じゃない。

 人在らざるもの。


 あの人の周りだけ空気が違う。

 清涼というか、いつも風が吹いていそうな。

 この世の塵芥を一掃するような、そんな清浄な風を纏った人。



 魔術だ。

 風の魔術が発動している。

 音声遮断の風の魔法?


 ――でも


 これは魔法?

 それとも………。



 私はアシュリ・エルズバーグの左隣に座る人に目が釘付けになる。

 背の高い人。真っ直ぐなブロンドの髪をしていて、何処までも長い。床に届く程長いのだ。

 クリスタル硝子みたいな髪だなと思った。


 そして瞳は――

 宝石のようなエメラルド色をしている。

 透き通っていて、曇りのない色。

 その瞳と目が合った。

 正面から、真っ直ぐに。



「大聖女、久しいな?」



 私はそんな風に声を掛けられたのだ。  






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