【038】『第二聖女の実力』
「ところで……」
王は思考に切りをつけて王太子に問う。
「先日、エース家に泊まったそうだな?」
「はい。とても有意義な時間を過ごせました」
「そうか。して第二聖女の実力は?」
王太子の金色の目が閃く。
「有り体に言って天才です」
「……ほう?」
「聖魔法と水魔法が顕現している多重魔導師というだけでも、類い希なる能力ですが、彼女の真価はその魔法展開の速さになります。息を吸うように魔法を使う。意識していなければ構築式が読み込めない程でした。そして正確で繊細。魔力消費が非常に低い。魔力の消費が低いという事は、それだけ数が打てるという事ですから、治せる患者の数に違いが出るでしょう。重要な力です。その上、その日に知ったのですが、魔道具作成が趣味のようでして」
「魔道具作成が趣味?」
「そうなのです。小さな日用品を便利な物に変えるような、そういったちょっとした魔道具を作ります。しかも瞬時にーー」
王太子は、銀色の小さなリングを王の前に翳した。
「これをこのように髪に着けます」
王太子の髪の色が、金髪から亜麻色に変化する。それだけで他者に与える印象を変える事が出来る。
「昨日、その場でプレゼントされました」
「………」
「目の色を変える為、魔道具の眼鏡を掛けていたのですが、セットで使って下さいと」
そこまで言うと、王太子はクスリと笑った。
「私がしていた眼鏡が魔道具だと一発で看破し、変装の精度を上げる為に、この髪色を変えるリングをくれたのです。しかも頭の中で設計図を引いて、その場で魔石に魔法回路を焼き付けていました。一瞬です。あんなに魔導式を自由自在に操る者を初めて見ました。彼女の凄さは勤勉性にもあります。何百もの構築式を覚えていて、状況によってそれを一部応用して使うのです。ですから使える式は千を超えるのではないかと、いえ多分、応用だけではなくオリジナルも入れるとするならば、その数は聖魔法と水魔法に限定して考えても、万に届くかもしれません」
「そうか……」
つまり臨機応変に魔法の種類を打てるという事になる。浄化のみ。回復のみ。もっと言えば、この種類の回復なら出来ますと言うような限定がないという事になる。
それは音楽で言えば、絶対音感のような力を言う。聞けば無限に弾けるという力だ。魔法にももちろんある。絶対魔法感。それに近いものを持っているという事だ。
ふと、そこまでの者が何故第一聖女ではない? という疑問が湧く。そんな訳はないだろう? と。この雷の天才魔導師である王太子をして、天才と言わしめた程の聖女だ。なぜ第二聖女? 第一聖女にそのような力があるとは聞いていない。だが、王には王の専属聖女がいる。言わずもがな王妃だ。長ずればその役目は第三王子や第四王子に移るやも知れぬが、第一聖女の聖魔法を受けることは立場上少ない。第一聖女の聖魔法を受けるのはここに居る王太子の役目。とあればーー
「……第一聖女の聖魔法はその上を行くと考えて良いのだな?」
「…………いえ、それは」
濁したか?
「お前は第一聖女に治療を受けた事はあるのだな?」
「ありません。王妃陛下と弟達がいますので……」
「ないのか?」
「はい」
「一度くらい受けてみよ」
「………難しいと思います」
第二聖女を語る時とは口の重さに雲泥の差があるな。信用していないのか? もしくはその聖魔法に疑問を持っているか……。
「まあ良い、その件は追々審議する。取り敢えずは第二王子の件よ。分かっておるな」
「はい。後処理は自分が、滞りなく収めてまいります」
「期待しておるぞ」
「はい。実の弟ですからね。良く知っているつもりです」
そう言って、王太子は小さく笑った。








