表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

377/439

377【16】『精霊の国』




 アクランド王国は中央の王領と六つの侯爵領からなる。

 王領の下に公爵家があり、六侯爵領の下に伯爵以下貴族の領地がある。

 その大領地の一つである北のフェーン侯爵領。

 そこが風の領主である翠の君の領地になる。

 このフェーン領と隣り合う隣国がフェーン聖国。

 フェーン領とフェーン聖国は元々一つの国を成していた。

 小さな小国で、広い森に風がいつでも吹いている場所で、そこにはエルフの民が住んでいた。

 アルフヘイムの真下ある土地だと言われている。

 その森は精霊樹の落とし子だとも、そうでないとも。

 あんまりにも昔のことで、エルフさえも伝え聞くばかりだというが。


 アルフヘイムか……。

 常春の楽園だといわれているエルフの故郷。

 戻れない、戻ることが出来ない故郷ともいわれている。

 精霊樹に守られた場所で、フェーン領のように雪も降らず、木々は実り、その実は生命の蜜だといわれている。


 ある意味、そこはユートピア。

 楽園と呼ばれるところ。


 フェーン聖国は精霊王を頂点とした国なのだが、政治を司っているのは王族。

 王族は精霊に選ばれし者。古の民。エルフ族。

 エルフが世俗的な国を維持するというのは、あまり聞かないことなのだが、大陸に一国だけ維持している国があるのだ。フェーン領の全面支援を受けて成り立っている、精霊の保護区のような特殊な場所。


 フェーン聖国の経済はフェーン領にかなり依存している。そもそもがフェーン聖国の女王は翠の君の妹。妹が精霊の保護を担当し、兄が俗世間との関わりと経済を担当しているようなものだ。


 なぜフェーン聖国がアクランド王国に組み込まれないかというと、アクランド王国は魔法の国であり、フェーン聖国は精霊術の国だからという、術の成り立ちが違うので融和性がないといのが建前。別の言い方をすれば無駄に拗れるという意味。


 そもそもフェーン聖国はエルフの国であり、フェーン領はハイエルフを領主とした、人間も獣人もハーフエルフもいる領になる。中心にある価値観も別方向に向かっている。


 兄である翠の君が五百年もの間、人間の思考回路について勉強をしていると妹の女王が知れば、眉を潜めるのではないかな。 


 どのみちハイエルフは滅亡の種族。いつまでフェーン聖国をフェーン聖国として維持できるかは分からない。ゆっくりと時間をかけて、滅んでゆくのだろうか? それはそれで些か寂しい。栄華を極めた種族でもあるのだから。


 翠の君は、その時を見越して国を二つに割った?

 いや、それ以前に兄妹間の相違点が深すぎたのだ。

 翠の君の妹は誇りが高く、他にも色々高く、これぞハイエルフとういうような人なんだよね……。



「氷」

「え?」

「何を考えている?」

「…………いや、国の未来とか、兄妹とか、兄妹喧嘩とか、そういう辺りの思考かな」

「失礼なことを考えていないか?」

「……いや、全然だよ? 翠の君の妹は未婚だったかな? と思って」

「未婚だが、あれは第五王子とは婚姻しないぞ」

「…………」


 いや分かってるって。

 どこをどうしたら取り違うの?

 わざわざ言ってくれなくても、分かるから?

 むしろそんな選択肢が出てきたことに驚いている。

 千歳と七歳ってなんの冗談?

 その辺りになると笑いも乾くという。


ところが、「第五王子とは婚姻をしない」と言い切った筈の翠の君が、一瞬の間を空けて首を捻る。


「…………いや? 思いもしなかっただけで、妹の婿? なしよりのありだろうか?」

「ないからっ」


 ないないないない。

 アクランド王国の誰にも忘れられた第五王子をフェーン聖国の女王に嫁がせるなんて? 翠の君に変な気を起こされては困る。でも隣国間の関係としては悪くない。そもそも第五王子の血の中にはエルフの民の血が……。ダークエルフだけども?


「よし。そろそろ頭の固すぎる妹に会いに行く時がきた」

「!?!」


 ユリシーズは絶句し、黙って僕らの様子を窺っていたアシュリはスギナ茶を噴いた。


「「ちょっと待ったっ」」


 ユリシーズとアシュリの声が被る。


「会いにいかなくていいよ。翠の君は何を言っちゃってる? それは暴走だから。暴走以外の何物でもないから。ストップというかステイというかそういう感じだから。それこそ賢者会議を通してよ?」

「こんな小事が賢者案件?」

「いや精霊と第五王子の関係との延長線で一緒に検討する案件だよ? むしろ自然な流れだという」

「フェーン聖国の王配がアクランド王国の第五王子とは今後非常に都合がいい。どういう方向に転んでも上手く纏められそうな気がしてきた。遠いエルフの血を継ぎし者が王子として生まれたのも何かの縁。つまりこのカードを上手く切れということだ」

「カードって!? 凄い露骨」

「ん? 人間の言葉だぞ」

「そうだけどもっ」

「使い方は間違っていないはずだ」


 なんか自信満々に言い張ってる大領主がいる。


「人間が使う時は、もう少し内心で使うんだよ?」

「分かっている。陰謀を企てる時に使うんだろう?」

「陰謀じゃないんだけど!? 正当な対処案件なんだけど」

「そうだったのか?」

「そうだよ」

「氷?」

「何?」

「王妃を罠で絡め取るのだろ?」

「…………」

「それは陰謀というのだ。我は人間語に深い造詣がある」

「…………」



 えー……。

 魔法大国アクランドの大侯爵がまた何か言い出した……。

 危険極まりないことを、ハキハキと口にした。


「………アシュリ」


 溜息交じりにユリシーズはアシュリに話を振る。


「……良い仕事したね?」

「音声遮断の結界のことか」



 ユリシーズの問いかけに、アシュリは二度も頷いた。

 冷や汗が出るところだった。

 あけすけにも程がある。

 次から、どんな時でも結界。

 むしろ結界のないところで喋るなと言いたい。

 そういう心持ちでいよう。うん。大切。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【コミック】『紅の魔術師に全てを注ぎます。好き。@COMIC 第1巻 ~聖女の力を軽く見積もられ婚約破棄されました。後悔しても知りません~』
2025年10月1日発売! 予約受付中!
描き下ろしマンガ付きシーモア限定版もあります!

TOブックスオンラインストアは画像をクリックまたはこちらから
紅好き。コミック1宣伝用表紙
第3巻 発売中!!
TOブックスオンラインストアは画像をクリックまたはこちらから
紅好き。2宣伝用表紙
第2巻 発売中!!
TOブックスオンラインストアは画像をクリックまたはこちらから
紅好き。2宣伝用表紙
第1巻 発売中!! TOブックスオンラインストアは画像をクリックまたはこちらから
紅好き。1宣伝用表紙
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ