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376【15】『鈴の音』



 しゃりんしゃりんと鈴の音が聞こえる。

 彼女が舞うと、まるでその身に鈴を携えた蝶が、ひらりひらりと飛ぶようで。

 都中の噂になって。

 王すら興味を示したという。

 伝説の舞姫。

 彼女の指の先から、空気が澄んでゆく。

 けれどそれは――

 錯覚? 幻想? 夢想?

 人々はこぞって列をなし、巡業の予定は、七日、十日、一ヶ月と延びてゆき。

 多くの人を魅了した。

 美しい舞姫。

 瞳は琥珀。

 髪は何処までも濃い樹脂色。

 小王都を巡り、王都に辿り着き、そこで一人の王に見初められた。




 ユリシーズは第五王子のことを調べ始めてから、こんな歌を耳にした。

 ある一座の舞姫が愛妾として召されることが決まった時に。

 吟遊詩人が歌ったもの。

 もっと時が経てば、もしくは第五王子が表舞台に立つ日がやってきたなら、もう一度流行るかもしれない。 



「翠の君」

「なんだ?」

「今回の件は、水の一族が引き受けるよ」

「氷よ、聞いていたのか? 風に乗って精霊の声が届いたのだ。他でもない我が元に。七年前に助けを求められたのは我。それは約束のようなもの。精霊との約束は違わない。それはエルフの誇り」

「水の一族にも誇りはあるよ?」

「水の一族に誇りがあるのは承知している。が今回の件に関しては水の誇りはどう誇るのだ? 何の誇りをかけるのだ? 繋がらないぞ。精霊の声が届いたということは、風に乗ったのだ。十中八九風の精霊。風は我が領地の属性。第五王子はダークエルフを遠い祖先に持つ者。ハイでもダークでもハーフでもエルフはエルフ。その子に罪のないことで、差別などしない。領地を束ねるもの、種族差別はしない。例えドワーフだろうが……。そうドワーフだとて……。ドドドドドドワー」



 凄いドで詰まっている。

 仲悪かったもんね…………。



「翠の君、大丈夫だよ? 翠の君は差別なんてしないのは知っているから。ただ単に、賢者内で土の賢者と個体的険悪だっただけだって知っているから」

「…………そう……とも? ドワーフが苦手なのではない。土の賢者と相性が悪いだけだ。ドワーフという種族についてどうこう思うことはない。もちろん?」



 王はわざわざ土の領地と風の領地を離したもんね。

 隣り合っていたら、ただでは済まなかった。きっと。



「第五王子がロレッタと一番最初に会ったのも何かの縁だと思う。王妃との因縁は僕の妹に起因する。今回は第五王子の命とロレッタの輿入れの取引。ロレッタは水の領地の姫だから、僕らが前面に立つよ? 言い分としては正当でしょ?」

「全然。精霊事は精霊使いが担当するもの。つまり風の領地の沽券に関わる」

「……エルフが沽券? エルフは沽券とか拘らないでしょ?」

「沽券なんぞという単語は初めて口に出した。沽券はどうでも良かったのだが、説得力があるかと思って使ってみた。第五王子殿下は我が領地にお迎えする。風の領に臣籍降下させ、我が養子とする」

「……それはそれでもいいけど。ロレッタはセイヤーズに引き取る気でいると思うよ?」

「それは勝手に思っているだけで正式ではないので問題ない」

「まあそうだけど。引き取ってどうするの? 婿に出すの?」

「いや、年頃になったら我が娘の婿とする」

「………娘って、全員百歳以上じゃない」

「何か問題が?」

「……いや、だって、百歳以上ってさ、歳が凄い上になるなと」

「は、百など微差。七歳と百三十歳。百二十三歳差か? 微差微差。笑わすな氷よ」

「…………」



 翠の君はツボに入ったのか、ころころと笑っている。

 そこっ。と思わなくもないのだが、エルフは変な場所がツボる。

 いいけどさ。

 まあ、第五王子が年頃になって、風の領主の娘と結婚するというのも、今の扱いよりは断然いい。初々しさは全くないけども。しかも再婚とかじゃないの? 更に初々しさはない。まあ、結婚に初々しさなんかいらないのかな? 幸せならそれが一番だけど。


 もしも精霊が第五王子と契約を交わすなら、それならば第五王子の居場所は風の領地が一番いい。精霊にとっても。あそこは精霊の住まう場所だから。






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