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360【044】『神の鍵2』




 私はシリル様を見ながら訴える。


「さっきのフィギュアはいりません。心的外傷後ストレス障害になりますからっ。御神体をお願いしますっ。心が癒やされる、硝子の可愛いあの子です」

「…………硝子の可愛いあの子」


 シリル様が私の言葉を繰り返す。

 ああ。見たかった。この目で。確認したかった、御神体のその姿。

 何か謎フィギュアに足止めされて、闇の賢者のフィギュアを見そびれた。

 硝子というのはただの妄想で、実際どういう素材のフィギュアがあるかは分からない。

 分からないから、あまりにも心残りなので叫んだ。


 私を足止めしたフィギュア。

 あれは確かに素晴らしい出来だった。

 炎の賢者と雷の賢者。白と紅の魔導師ローブが翻っていて、魔法剣を持っていたのだ。

 それがまあ格好良くって。

 あの剣が炎を纏ったり、雷を操ったりするわけだ。

 想像するだけで素敵。

 素敵……なのだが、私が足を止めたのは、実はもっと別の理由。

 あの七賢者のフィギュア、ルーシュ様とシリル様にそっくりだったのだ。

 現代の属性者をモデルとしたとしか思えない酷似状態で。え!? となった訳で。

 ついでに言うならば、彼らが守るようにしていた大聖女が私にそっくりという。

 はっきり言って、あれは私とルーシュ様とシリル様なのではっ。と突っ込みたくなる仕様。


 現代の造形師様。肖像画ではなく、手っ取り早く各属性の血統継承者をモデルにしたよね? 大聖女は王妃陛下をモデルにする訳にはいかないから、取り合えず今期の第二聖女をモデルにしちゃった? みたいな流れ。そうとしか思えない造形だったよ?


 そうこうしている内に、私は完全に紫色の光りに体が包まれる。

 行き先。行き先は魔法陣に書いてある。

 書いてあるのだが――


 座標軸で書いてあるので微妙に分からない。

 分からないが状況から類推して一番可能性の高い場所は分かっている。


 そしてルーシュ様とシリル様が遅れて迎えに来てくれるというのなら、彼らも状況だけで予測していることになる。


 予測はあくまで予測で、違ったらどうしよう? と思わなくもないが、私たちが国中の座標を知っているわけでもないから、どうしようもないのだ。ああ、想定外の所に吹っ飛ばされたらどうしよう?


 落ち着いて。

 お、おち、落ち着いて。


「ルーシュ様、シリル様、この魔法陣を描き取った方が良くないですか? もちろん半分くらい暗記してしまっていると思うんですけど、でも慌てていると人って忘れちゃうじゃないですか? 必ずクロマルとアリスターに見せて確約を取って下さいね」


 なんなら私も描き起こそうか? 紙? ペン? 私はローブを弄って紙とペンを取り出すと、ふとこの生体質量をいうのが気になりだした。


「…………付かぬ事をお伺いしますが、私、まさか全裸で転送されるということはないですよね?」

「「…………」」


 私の微かな疑問に、二人の魔導師の変な空気が流れる。


 生体の質量計算。

 ローブとか荷物は入っていないよね?


 あ、でも待って?

 私は再度魔法陣に視線を落とす。


 無機物と有機物と生体の質量計算が別々でしてあるとかかな?

 私は高速で手を動かしながら、魔法陣を描き取っていく。


 何か魔法陣に取り込まれながら、三人ともメモ書きしているという、変にシュールな絵面になってしまった。どうなんだろう?


「……私は前半を書き取りますので、シリル様は中盤、ルーシュ様は後半でお願いします」


 全裸は嫌だな……。

 いや、命があればいいのか……。

 そんなことを逡巡していると、シリル様の声が届く。


「ロレッタ安心して。服やポーチは僕が責任を持って回収するからっ」

「…………」


 ……あんまり、嬉しくないですシリル様。

 ――でも。


「……じゃあ、もしもの時はお願いしますね? 特に雪玉草のポーチと各部に色々と括り付けているポーションなんかが大量に残されるかも知れません」


 私達二人が、そんな微妙に情けない服の心配をしていたのだが、そんな二人にルーシュ様が呟く。「アホな心配をしていないで、シャキシャキ書け。ついでに服も転送される。ここにその分の質量が書いてある」と教えてくれた。


 一先ず「ほっ」

 そしてほっとした瞬間、私の知覚から重さがなくなった。


 無重力!?


 そう思った瞬間、私は空間の歪みに取り込まれていた。



 

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