357【041】『金色の鈴』
冷たい林檎を食べたからか、私たちは少しだけすっきりして、一番近いお店を目指した。予定では昼食が一番先だったのだが、ちょっと魔力に酔ったせいか、とても食べられないというのもあるし、馬車移動ではないので一番近くのお店から行こうということになり、最初は宝飾品のお店。一番興味がなかった? というのが本音ではあるのだが……そうはいっても魔力を込めるものなので、魔導師としては石の質のようなものも気になる。けれど、後の予定が詰まっている、さささっと選ぼう、さささっと。
お店はいかにも高級店という感じで、でもご婦人方や令嬢方御用達の専門店という雰囲気でもない。どちらかというと魔導師御用達の石の専門店だろうか。ちなみにあるあるだが客は私たちしかいない。そんなに気軽に購入出来るような物でもないし。単価が高いお店は得てして空いているものだ。ローブを羽織った三人の魔導師が入店したのだから、いかにも魔法に使うといった体で、ああそのために本日はローブの出で立ちだったんだなと、遅ればせながら納得した。
第五王子殿下の守りの石はエメラルドにすると言っていた。
私たちの出で立ちに風の魔導師風の者はシリル様。
深緑のローブを羽織っているから、シリル様が選ぶのが一番自然かな?
どんな石がいいだろう? 私は硝子のショーケースの中に飾られた石をじっと見つめる。明度の高いものが良いだろうか? 何の魔術を仕込むかによって選ぶ石も変わってくるのだが、護身用に使いたいならば、突風とかの魔術が良いだろうか? 影の一人が風の魔導師だから、その方に助言を聞きたくもあるが、なんせ影との接触が私の判断では出来ない。うーん。
イヤーカフも可愛いと思うのだが、見えやすいよね? 耳だから。服の中に入れるのならペンダントか、長ズボンならアンクレット? なかなか決められずにいたのだが、小さな裸石に目が行った。これクロマルの瞳の色に似ている。金緑色。エメラルドではない。
「ロレッタはその石が気に入った?」
シリル様に聞かれて、私は頷く。あの時の止まった空間で、最後に迎えに来てくれたクロマルの透き通った綺麗な瞳を思い出す。この石がいいなと思う。
「これはペリドットだな……」
ルーシュ様も、その石を見つめながら呟く。
「別名『夜のエメラルド』悲しみから持ち主を守ってくれる護符の石」
「これにしましょう?」
私は喰い気味にお願いする。だってぴったりじゃないか? 色も石の力も。
宝飾品に加工した方が良いだろうか? でも石としての力はルースの方が発揮しやすい。このままでいいかな? 迷った末に、そのまま貰うことにした。魔力を込めてから、そのタイミングでカフスとかにしてもいいかもしれない。店主に購入の意図を伝えてから、今度は私の指輪を選ぶ。
石は直感? と信じてイエローダイアの指輪に絞って選ぶ。というかそんなに種類はなかったので、一番小さな石を選んだ。これ良くない? クロマルの指輪と二連で薬指につけると、なにか猫の首輪と鈴みたい。可愛い。
「これ一択でお願いします!」
そう言うと、シリル様は渋い顔をし、ルーシュ様は少し笑った。
「シリルは分家の分家のそのまた分家の者だからな、これくらいが良いんじゃないか?」
ルーシュ様がシリル様に向かってそんなことを言ってからかっている。
「……ロレッタ、僕にも立場があるから、こうもう少し大きめのにしない? そんな黒曜石の指輪の付属品みたいな……ね。それ一つで存在感を表せるような……さ」
「…………でも、わたし。クロマルの指輪は一生取らないので、単独ですることなんてないんです」
「…………式の時は取ってね」
「もし、そういう式が現実にあるのなら、その瞬間だけ髪飾りにでもしますが、肌身離しません」
「…………」
「これにしとけ。欲しいのを買ってあげるのが一番だろ。気に入っていないものをあげたら、着けてくれないぞ」
ルーシュ様に説得され、シリル様は渋々頷いて購入手続きをしてくれた。
シリル様からイエローダイアの指輪を購入すると言われた時は、正直、困ったことになったと思ったけれど、これは嬉しい。サイズ調整があるからというので、私はペリドットの石だけ受け取り、雪玉草のポーチに入れる。宝石選びが二十分くらいで終わった。石選びにしてはとても短いと思う。私は気持ち早足で次なるお店を目指す。さささっと完了しましたね! 次が水着でその次がフィギュアでラストがカフェです! お昼を取るのはまだ難しいので、そういう順番になりました。
次は貴族用の衣服のお店。カウンターでシリル様が懐から分厚い紙の束を取り出して店主を驚かせる。それは全て水着のデザイン画。確実に増えている。なんと十枚も購入する予定だとか言い出す。そんなにいりません。真面目に一枚でお願いします。私が一枚一枚と言い張ったら、どれにするという事で三人で額を寄せて悩む。黒に白に三毛に虎に鯖に雉子、銀にポインテッド、八割れに茶虎。全部可愛い。でも黒一択ですよ。言わずもがなクロマルの色という。
ルーシュ様とシリル様は徹夜したのにと嘆いていたが、水着十着ってなんですか? 一生分よりまだ多い。そんなに持っててどうするの? 一番の力作だという三毛をルーシュ様とシリル様がこっそり店主に注文したのは、気付いていたが止められなかった。こっそり入れる程なんですねっ。そして突っ込める空気じゃなかった。絶対突っ込むなという雰囲気凄かった。ついでに既製品の水着も一枚購入。これはスカートの短い制服みたいなデザイン。生地が水を弾く仕様とのこと。これ、水魔法を添加すれば完璧な水着になりそうだなと考えて、ああそれも伯父様の課題一つなのかも知れないと後々気付く。
私が既製品の水着を選んでいる間に、ルーシュ様とシリル様が水着の注文をデザインから生地から何から全て完了させていたので、支払いは伯父様の付けで完了。
次だ。次は『フィギュア店』だ。
何故かついでのつもりの聖女専門店が心のメインに躍り出していたのが不思議でならないが、きっと心の流れって不思議なものなのだとなんとなく納得し、早歩きで『聖女専門店』とやらに向かう。ここでも気持ち早歩きですっ。








