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341【025】『君と私の同化作戦』





 ふーん?

 あ、そう来る?



 入り口で立ち尽くすミシェルに私は三日月のように目を細ーくしてニコーと笑う。



「いいですか? ミシェル」

「?」

「私はあなたのことを何と呼んでいましたか?」


 ミシェルは首を少し傾けて、


「弟三?」


 と、答える。

 私は待ってましたとばかりに頷く。


「そうです。弟三です。三人目の弟という意味です。つまりは私が姉でミシェルは弟。姉弟なんです」

「……………」

「姉弟といえば同じ釜のパンを食べ、同じ屋根の下に眠るという。つまりは姉が聖女で薬草臭かったら、必然的に弟も臭いという」

「…………」

「つまり姉と弟は同じ穴の狢」


 ちょっと違う気もするが、気にしてはいられない。ここは立ち止まるタイミングではない。私はミシェルを引き寄せてぎゅーっと抱き締める。出会い頭にしそびれたハグだ。このタイミングでぎゅーぎゅーっと抱き締めて抱き締めて抱き締める。


 ちょっとミシェルの肩から掛けた鞄が当たる。



「これで匂いは全て移りました。問題ありません」

「…………え」

「私達は姉弟で匂いは同化。あなたが薬草の匂いが苦手だろうが苦手じゃなかろうか大きな問題ではありません。さささ、入って滞在してもっと同化しましょう。将来、商会で腕利きの商人になるも、凄腕のハニーハンターになるも、私の助手であるデキル薬師になるも、うっかり魔導師の助手になるも分かりませんが、私がお姉ちゃんだということは未来永劫変わりません。さささ三日で慣れます」


 喋るだけ喋ってからミシェルの表情を確認すると、下を向いてなんだか赤くなっている? ん? 赤い。赤………。



「…………同化」

「そう同化です」

「魔導師のお姉ちゃんと同化」

「そうです。ついでに聖女ですけども同化」

「………僕、同化チャレンジしてみます」



 うん?

 なんか良い返事?

 アレ?



「スラム街の本物の姉は、貴族の妾になることが夢でした」



 うん。そうだね。シリル様をめちゃくちゃ狙ってたよね? まったく脈がなかったけれども。むしろ一刀両断という。



「………僕は魔導師に憧れていた。遠すぎるほど遠い憧憬。スラム街の子が絶対口に出せないような言葉。僕は魔導師に憧れていた。同じ人間とは思えない。生まれた時から神に愛された子。神の一部を与えられた者。神の色を一色頂いた者。アクランド王国に生まれ、魔導師に憧れない者などいない。その指先から炎や水を出し操るのだから」

「………………」

「姉は貴族に憧れ、僕は魔導師に憧れた。それが生きてこられた理由。苦しくてゴミみたいな一日が終わり、姉に罵倒され母に蔑まれた後に、僕はゴワゴワの毛布に潜り込み、目を瞑る。そして僕は魔法省の制服を羽織って魔導師になった夢を見る。毎日毎日魔法士になった夢を見た。夢の世界は自由で、僕は僕ではない僕を想像することで、息をする気力にする。息をするにも気力がいるの。僕がお姉ちゃんのお財布を盗んだ時ね、返り討ちに合ったら間近で魔法展開が見られるでしょ? 最後に魔法を見て死のうと思った。もう夜が来ても、魔導師になった夢を見ることも出来ない……限界が来ていたから……いつ死んでも平気だった」

「……………」

「………だって、僕はもう夢が見られないくらい大きくなっていて、自分の人生では決して魔導師になれないことは分かっているし、憧れはずっと憧れのまま、遠い場所。手の届かない場所。魔導師はそんなところ」



 私は堰を切ったようにしゃべり出したミシェルの言葉に耳を傾けながら、中古の洋服屋で錆色の洋服を選んだ時の事を思い出していた。あの時は魔導師の制服について質問してきた。興味があったんだね?



「今も変わらず僕は魔導師には成れないけれど、僕のお姉ちゃんだという人が魔導師で、身近に何度も魔法展開を見せてくれる。それだけで胸の中の一部がすーっと気持ち良くなる。僕は魔導師には逆立ちしてもなれないけれど、魔導師の弟にはなれる。『僕のお姉ちゃん魔導師なんだ』って。そんな台詞を言って良い場所が突然開かれた」


 ミシェルは私を窺うように瞳をあげる。


「………薬草は少しツンとするけど、聖女の弟だから同化する。なんせ聖女の弟だから、『薬草臭い? ああ僕のお姉ちゃんは聖女だから』という証でしょ? 同化します」



 あ、うん。

 なんか意外と効力あったね?

 むしろ攻めに転じた?

 しかも聞いたことがないくらい沢山喋ったね?



「夢って叶わないけど、なんか変な風に叶いますね? 物凄いカーブ」



 あ、うん。カーブ? 



「僕、ハニーハンターとか商人とかじゃなくて、聖女の助手になります」

「えっ」



 来年から商業訓練校に………。

 え?

 聖女の助手?

 それなら学校に行かなくても、私が教えられるっぽくない?

 行かないの? 学校?



「お姉ちゃん、第二王子殿下に振られた第二聖女なんでしょ?」



 うん? それ禁句的な。



「大丈夫、大丈夫、全然平気。むしろ有名人になれたね?」



 いや。有名人になんてなりたくないよ?



「スラムに生まれることに比べたら屁みたいなことですね?」



 屁?????

 何言ってんのこの少年。

 反抗期???



 話は終わったとばかり、私の部屋に入っていく少年の姿を見ながら、私は目を白黒させる。

 切り替え早いの?

 そうなの?

 それで合ってる?

 お姉ちゃんついていけないんだけど。





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