【034】『王家の事情(色々ある)』
雷の魔導師と炎の魔導師と光の魔導師は親友であり同じ村出身の幼馴染み。
つまり王立図書館所蔵の『建国語り』はそうなっていると……。遙か昔の事だから本当の所はたぶん誰にも分からない。でもーー光の魔導師が使ったという大魔法。禁術に違いない。何代にも渡って楔を打つ等と出来るのだろうか? 例えば血の中に刻むとして……血は常に新しい血液が生成される。細胞もそうだ。骨ですら魔術を刻むのは難しい。刻めても効果に時間制限が出来る。ではどこにーー。
私はふとルーシュ様の紅色の瞳と目が合った。子孫全員に刻むなんて不可能だ。そもそもその必要がない。魔力が遺伝していないなら、国を二分するという事にはならないからだ。ということは、血統継承……ーー。
「ロレッタ」
そこまで考え込んだ所で、ルーシュ様に声を掛けられて我に返る。
「シリルの戯言を真に受けるなよ? 王家が持っている建国語りなど王家に都合のよいように改竄されている確率が八割だ。先程の建国語りで言うと、炎の魔導師と雷の魔導師の契約は国民に不安を与えない為に捏造した部分だ。魔法契約で結ばれている。炎の魔導師は決して王を裏切らないという安心が欲しいのだ。だからそういう事にしている。他の歴史書は六侯爵家と王家の間に結ばれているというのもある。そしてエース家で保管しているものもあるが、結末が少し違う。どれが本当かはハッキリしていないが、六侯爵家所有の物はそれぞれに違うと思うぞ」
……なるほど。そうなのですね。
「だから、余計な事は考えるなよ?」
……余計なこと。
「王家は王家の権威を見せたい。故に大魔導師であった聖女を一代目王妃として崇めている。これは当然政略だ。雷の魔導師と多重魔法使いの結婚なんて、国民が憧れる最高の組み合わせだからな。第一王妃を聖魔導師としているだけで、建国王には三人の妃がいた。第二王妃と第三王妃。そこの部分は肖像画すらないが、『英雄色を好む』だ。綺麗じゃない部分だって大量だぞ」
「………」
「ちなみにここにいるシリルは既婚者だが、妻は三人娶る予定らしい。あとの二人も魔導師希望なんだそうだ」
「……シリル様は色を好む……タイプだという事ですね」
私がシリル様に視線を向けると、彼は手を顔の前で横に振って、否定の仕草をしていた。
「安心して下さいませ。私も色々なタイプの男性がいる事を知っているつもりです。英雄ですもの。素敵だと思います」
出来るだけシリル様の個性を尊重するような返答を心がけたつもりだが、どうなのでしょうか? 個人的には沢山の妻、つまり多妻家はとても無理だが、他の方なら個人の考えを尊重するつもりだ。それにシリル様のお立場ならそうなるのが自然なのだろうと思う。
「雷の遺伝子を残す事はシリル様の務めでもありますものね。皆様も理解していると思います」
既に彼がどこの誰だかは暗黙の了解のようになってしまったが、大丈夫です! 口には出しません。私も一流の侍女を目指していますから、空気を読めるように努力します。
そう思ってシリル様を見ると、打ち拉がれていた。
アレ?








