338【022】『何もない場所で』
私は部屋のドアをノックしながら心の準備をする
取り敢えずハグでしょ?
会ったらハグしてハグしてハグしまくろう。
私の三番目の弟として育てることを決めたのだ。
使用人の私の弟だから、使用人見習い。
子供なので、仕事を見守りつつ、出来るお手伝いをしつつ、来春は商業訓練校に上げるつもりでいる。読み書き計算と経理が出来れば食うには困らない。組織あるところに経理ありだ。国などは、主計局が存在し国家の出納を管理している。
商業訓練校には、商業科や経理科なといくつかの科が存在し、将来はアリス商会(架空)で働くことを念頭にして選んで欲しい。まあ、計算が嫌いなら御者とか護衛とか色々あるけれと、ハチミツハンターであることも忘れてはならない。そこが一番大事………。
そうこう考えつつ返事を待ったが、待てど暮らせど反応なし。
アレ?
なんで?
いない?
いや……。
いるっぽいんだよね?
人の気配的に。
息を潜めているというか……。
いるでしょ?
もう一度コンコンとノックをする。
そしてドアの向こうに耳を澄ませる。
いると思うんだけどな………。
歌でも歌ってみる?
わたしは小声で聖歌を口ずさんで、様子を窺う。
風の魔法士ならこういう聞き耳スキルは一発なんだけどな?
聖女だからな? 隠密系スキルはいっさい持っていない。
どうしたものか?
数秒考えて普通に開ければいいんじゃないかと思い至る。
でも相部屋の人に迷惑?
けど御者の方、めっちゃくちゃ朝早いというか、馬の世話があるから。
御者兼厩舎管理みたいな感じだし。つまり馬系担当。
早起き必須の部署だから、もういないだろうという。
いないからって部屋に入ってよいかというと、それはもちろん駄目なやつ。
本当にどうしよう?
相部屋不便。
でも見習いだし、一人部屋は貰えないし。
もう私と同じ部屋でよくない?
どうせ兄弟みたいなものだし?
どうしたものかうんうん唸っていると、通りがかった使用人仲間の方が、私の様子に見かねて、伝えとくから入れば? とか言ってくれた。
うわー。嬉しい。有り難い。親切っ。
私は伝言をお願いして、いざ、不法侵入? ではないけれど、ちょっと失礼させて頂きます。
恐る恐るドアを開けて、ミシェルを探す。
目の届く範囲にはいないな………。
ベッドの上、いない。
机自体がない。
ベッドと備え付けのクローゼットしかない。
探そうにも狭いので、一瞬で見渡せる。
クローゼット……。
クローゼット。
使用人部屋のクローゼットなのでコンパクトなものだ。
でも、人は入れるかな?
この部屋って、人が隠れるならクローゼットかベッドの下しかない。
私は遠慮気味に入室すると、ベッドの下を確認する。
いない。
トランクが一つあるだけだ。
これはきっと御者の方の物だろう。
ミシェルの持ち物は斜めがけの鞄が一つだけだから。
私はクローゼットをしげしげと見てから、コンコンとノックをする。
クローゼットにノックとか!?
自分で自分に突っ込みたくなる所業だ。
でもでもでも――
コンコンと返事が返ってきた。
「!?!っ」
ここですか!?
ここにいるんですか?
そして律儀にノックを返すとかっ。
「ミシェル? 開けて大丈夫??」
返事の代わりにコンコンとノックが返って来た。
開けていいやつだよね?
間違ってないよね?
私はそっとクローゼットを開けると、黒い洋服に身を包んだミシェルが隅の方に小さくなって蹲っていた。闇に溶け込んでる?
暗くないっ。
狭くないっ。
闇の世界だよ?
「おはよう。朝だよ?」
「…………」
無言無言無言。
ちょっと見ないうちに弟三が病んでしまった?
予定では再開のハグ? だったのですが、私達は何か変な感じに「おはよう」の挨拶をすることになってしまいました。








