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330【014】『夜中に積もる紙Ⅴ』





 俺は床に倒れるシリルを尻目に、渡されたロレッタ日記を見ていた。

 何故一巻じゃなくて十七巻とか中度半端なところを持って来た?


 捲っていくと、これは私的な日記ではなく、入念に書き込まれた年表なのではないかと考えを改める。つまりこの年表の間を埋めていくのだな……。



 そんな確認事項をしていると、テーブルにシリルの手がバタンと置かれる。



「ん? 絶望から復帰したか?」

「………復帰したとも」

「良かったな」

「…………」


 少しプリプリしながらも、シリルは再び椅子に腰を掛け、水着のデザイン画を見て惚れ惚れしている。



「我ながら良く描けた」

「確かに、割と可愛いな」

「ルーシュ」

「なんだ」

「ここから本番なのだが」

「は?」


 本番?

 何が???


「水着を踏み台にしていよいよウエディングドレスのデザインに差し掛かろう」

「え?」


 何言ってるんだ? この王太子は……。

 ウエディングドレス???

 ロレッタの???

 俺とお前がデザインするの?

 嘘だろ?

 寝言? 戯れ言? 妄言?



「……本気で言っているのかシリル」



 俺はあまりの大言壮語に二度聞きする。

 いや……。

 ウエディングドレスって。

 それってドレスの中でも一番の大物で。

 値段的にも一桁違うだろ? というような代物だ。



「本気だともルーシュ」


 えー………。



「今、何時か分かっているか?」

「夜中のど真ん中」

「そうだな」


 寝ろ。

 明日、買い物に行くんだろ?

 寝坊するぞ?

 悪い事は言わない。寝ろ。



「大丈夫、ロレッタポーションがまだまだある。飲もう」



 いや、何飲もうとか言ってるの?

 そのポーズ酒か何かか?

 ポーションだぞ。

 しかも、なんというかワーカーホリックポーションというか……。

 別に仕事ではないけども。



「王太子、正気か?」

「もちろんだとも」

「いや………」



 正気ではないだろ。

 大国の王太子自ら、睡眠を削ってドレスのデザイン画??

 擬装結婚で着るウエディングドレスの??

 しかも、未定なのにっ。

 フライングを通り越して、脳内予定が暴走中という……。



「水着のデザインをしていたら、何やらゾーンに入った」

「……いやゾーンて」



 シリルは何か紙の束を取り出す。



「さあ、描こう」



 いや、描こうとか言われても。



「やっぱり、レース推しかな?」



 シリルの言葉に俺は頷く。



「レースは外せないだろ。早めにデザインを決めて注文しないとな? レースは時間がかかるから」

「そうだよね? やっぱり花かな?」

「ん、花が無難ではあるな」

「何の花がいいかな?」

「ロレッタのイメージは薔薇とか大輪の花系じゃないな? 小花がいいんじゃないか?」

「ミモザとかどう?」

「ミモザはクロマルのこともあるからな、ロレッタが喜びそうではあるが、図案化した時に他の花と差別化出来るかどうか」




 俺達は白い紙に向かってミモザの図案を描き始めた。


 

 ん?

 ナニコレ。

 完徹コース?



「ミモザは葉も入れた方が良いだろうか?」



 シリルの言葉に俺は黙考。



「両方のパターンを描いてみよう」



 最善はどれだか分からないからな。

 ロレッタらしくて、それでいて似合うものがいい。



 俺は三本目のポーションに手を伸ばす。

 シャンパングラスに入れたいな?



 そんな風に思いながら、夜中にキラキラと光るポーションを見ていた。





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― 新着の感想 ―
これはお二人の夢と希望と睡眠と欲望が混ざった傑作になるのでは(笑)貫徹コースですねわかります。そしてとても似合うんだろうなぁ…
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