【033】『光の三原色(昔語り)』
シリル様は私の話にじっと耳を傾けてくれた。そしてハッキリと言うのだ。君の魔法への向学心は素晴らしい。自分の特性や長所というものは、自分では見えにくいし評価が低くなる傾向にあるが、君の長所は僕とルーシュが理解したつもりだ。大切にして欲しいと。
「光の三原色という言葉を知っているかい?」
「はい。光は 赤、青、緑の三色の光を混ぜると白になりますね」
「そうだね。この三色が混ざると出来ない色はなくなる」
色の三原色とは違う所が興味深い。
「三色が重なると白い光になる。君は三色のうち青が何か知っているかい?」
「……」
青が何か……。という事は何かに例えている? 首を傾けて考え込むロレッタに、シリル様は少し微笑んだ。
「建国語りは読んだことがある?」
「はい。作家を変えて何冊も読みました。特にお気に入りのものは、初代国王と六賢者が国を平定して行く物語風の小説でしょうか」
「最後に雷の魔導師と炎の魔導師は国の平和を願って約束を交わす。これは二人のシーンとして描かれる事が多いけれど、本当は三人目がいたんだよ?」
「三人目ですか?」
「そう。三人目の魔導師」
「水を司る六大侯爵家初代当主様ですか?」
シリル様は小さく首を横に振った。
「六大侯爵家初代当主も王の盾の一人で、建国の功労者ではあるが、彼に非ず。三人目も彼らの親友。同じ村出身の大魔導師だ」
作品の多くは、雷の魔導師と炎の魔導師が親友で、どこまでも広がる無秩序で理不尽な世界を平定する為に立ち上がるのだが、本当は三人で立ち上がったという事なのだろうか? そういえば、一冊だけ紐で綴じられた年代物の本があった。貸し出し不可どころか閲覧許可が必要な古書だった気がする。
そこには三人の影が描かれていた。約束とは即ち口約束に非ず。文字通り魂に刻む。遺伝子情報に刻む。つまり本能として受け継がれるものにする為の遺伝子改竄。人体に精通する聖魔法者が二人の魔導師に術を掛けるのだ。決して裏切らない裏切られない、そして解呪不可。
雷と炎は攻撃魔法では一、二位を争う存在。敵対すれば国が割れる。だからこの二人の魔導師は履行不可の印として、精神的なものや思想的なものではなく、肉体と魂に盟約を刻む。聖魔法の中でも禁術に入るかもしれない大魔法だ。術者は最悪命を落とすかも知れない。じゃあ、二人の約束が未来永劫踏襲されるようにする為に大魔法を掛けた人物が三人目。つまり光の魔導師。
「……王妃様」
「あたり」
シリル様はニッコリと笑う。
「そう、三人目は初代国王妃。彼女は聖魔法を得意としていたが、水魔法も使えた多重魔法使いだったんだよ。そして雷の魔導師と炎の魔導師と光の魔導師は親友であり同じ村出身の幼馴染み。つまり蒼の魔導師でもある」
そう言ってシリル様は私の瞳をじっと覗き込む。
綺麗な瞳の色だねとポツリと呟いた。
 








