325【009】『誰かのためのいとしい未来Ⅷ』
前話と差し替えになります。
連載を始めまして一年と半年になりますが、全文差し替えたのは初めてになります。『誰かのためのいとしい未来Ⅶ』からこのⅧ話に続きます。差し替え部分は第五王子のルーツに関わる部分でしたが、その部分はもう少し時間を掛けて紡いでいこうと思います。
翠色の石、エメラルド。
何が良いだろうか? 指輪は目立つかな? ブレスレットとかかな? 服の下に入れられるもの。
私があれこれ考えていると、シリル様が私に微笑む。
「一緒に選ぼうね?」
「はい」
「今日はもう遅いから、ゆっくり寝て、明日は昼前に出よう。お昼も兼ねて食事を外で取ろうね?」
「はい。魔法省での訓練は明後日からですか?」
「明後日は七の日で休日だから二日空けてからかな」
「分かりました」
魔法省は二十四時間誰かしらがいる職場ではあるが、それは当直であり有事の際の連絡係になる。
「……伯父はどんな服を用意するように言っていたのですか?」
「それは、可愛くて、ロレッタに似合って、布面積が少ないものと言っていた」
ん? 布面積??
それは………?
「……布の面積が少ないことが重要なのですか?」
「そう。そこが最重要項目」
「…………」
……最重要って。
「……もしかして、水に入れる服という意味ですか?」
「そうともいうね」
水着か……。
水の中に入って訓練するのかな?
布面積が多いと水を含んで重くなってしまうからだと思うのだが、水の魔導師にとってそこがそれほど大きく強調されるところ?
「何がいいかな? やはりネル生地がよいと思うが、羊か山羊か雪玉草などふわふわしたものが水を弾いてよいと思う」
雪玉草の水着?
あまり聞かないというか……。それは凄い高級水着になってしまう。
「既成品ですよね?」
「……やはり既成品では、ロレッタの品格が現しにくい。似合っていなければお話にならないからね?」
そこまで?
「僕が想像するに、雪玉草のふわふわのミニワンピースなんかがよいと思うのだが……」
「……なにか夢が広がる可愛い水着ですね?」
「そうそう。可愛らしく猫のポケットなどをあしらったり?」
「それはとっても良いアイディアですね?」
猫の水着。可愛いです。
耳とか尻尾とかもついてたらクロマルみたになる。
それから私達は紙を引っ張り出し、ベッドの上で水着のデザイン画を描き始めた。
可愛いを優先すると、耳やら尻尾やらファーをつけたりして、最早布面積という主旨とは程遠くなっていくのだが、ここは水の魔術師の特権で、布面積には拘らず、納得いく可愛い仕様を優先することにしようと、話がエスカレートし、本来水着にはポケットは付いていないのだが、完全な猫型の輪郭が一カ所は欲しいという譲れない部分に変動し、色も塗ってみようと色インクも持ち出し、シリル様に至っては、ロレッタが着ている所を想像した方が良いだろうと言い出し、私のスーパーデフォルメ画が水着を着ている姿を描きだした。
それが三等身くらいの可愛らしい絵で、白猫、三毛猫、虎猫、黒猫バーション等色つきで全部いった。シリル様、絵うまっ。少ない線で現すシンプルな絵が上手いこと。
「シリル様、絵がとてもお上手ですね?」
私が心の底から賛辞を送ると、シリル様はにっこり微笑まれる。
「……自分の欲求を果たすためのスキルだからね? 王族としての嗜みだよ?」
欲求を果たす?
王族としての嗜み?
前者も後者もどうなの?
欲求って何?
「……あの、憚りながらお伺い致しますが、欲求とは?」
「それは、理想を切り取るブロマイド技術のことかな」
ブロマイド技術。
そういえばシリル様は絵師へ発注するのではなく、ご自分で手づから描かれるという。
私はふとソフィリアの街で見せて頂いたブロマイドのことや、街の薬草店で聞いた、聖女専門店のことを思い出した。
「……シリル様?」
「どうしたロレッタ?」
「私、ソフィリアの街で聞いた別名『第二聖女店』という聖女専門店の存在を思い出しました」
「…………」
「私も聖女の端くれなので、いったいどんなお店なのか、気になるのですが」
「ロレッタ、この国の第二聖女はそんな些末なことは気にしなくていいんだよ? 忘れよう?」
いやいやいや。忘れるとかないでしょ?
ないですよね? だって第二聖女のグッズが八割とか言われたんだよ?
忘れられないよ? 忘れちゃ駄目なやつ。
「明日、行きませんか?」
「………」
「行きましょう? シリル様」
「………」
「ルーシュ様やアリスターやミシェルも誘って……」
「………ロレッタの水着を皆で買いに行くの?」
私の水着を買うのにみんなで行くのは語弊がある。
「いえ、昼食をみんなでとりましょう? そのついでに聖女の専門店にも寄るという」
「全員、第二聖女のブロマイドを欲しがると思うよ?」
「…………」
それはないですよ? シリル様。
私は少し笑ってしまった。
ないない。そんなこと全然ない。
笑ったら明るい気分になる。
笑いって凄いな、声を出して笑ったのは、王妃陛下に会ってから初めてかもしれない。
私は笑いながらシリル様に微笑んだ。
水着のデザイン画は既に三十枚を越えている。
沢山描きました。
私の一押しは黒猫バーションです。
シリル様はどれですか?
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