【032】『色の三原色(聖女科必須)』
シリル様が固まってしまわれたので、聖魔法と髪色の関係についてお伝えしようと思う。上手く伝えられるかな? 魔法の事となると、途端に早口ノンストップになってしまうから不安だ。
「あの……。僭越ながら御説明させて頂きますと。色を構成するには青緑、赤紫、黄色の比重が重要になってきます。青をどれだけ入れたか、赤をどれだけ入れたか、黄色をどれだけ入れたか。染色師等はこの配分がしっかりと頭に入っているお仕事だと思います。色に関して言えばもちろん一般教養で魔法科の皆さんもさらっと学んだかも知れません。ただ聖女科は染色師の方程ではないと思うのですが、色の構成色素に付いては割とがっつりと学びます。必修でした。癒やしの聖魔法に応用するからです。例えば痣等を元の皮膚と同じ色に治すような時、この知識が必要になって来ます。知らなければ痣を元の皮膚の色に戻す段階で止まってしまいます。その延長線上に髪の色素配分理解というのがあるのかなと。髪も人体の一部ですので。ですから黄色をベースにどれだけ赤と青を加えるかで茶色が出来上がりますが、茶色は作りやすい色ではあります。三色変換ですけども」
赤と青と黄色で現存色は無限に生成される。全ての色を作る事が可能だ。先程、眼鏡を拾った時に確認したが、あの眼鏡はレンズ越しに黄色を茶色に変える魔法が掛かっているのだ。黄色に青を混ぜると緑色になる為、茶色にするのは更に赤を加える。
レンズは透明だが、あの硝子に青と赤を入れ込んでいる。そしてたぶん、緑色に変える眼鏡の方が一色少ない分安価に出来る筈だ。シリル様がお持ちの眼鏡は、持ち主の色に合わせた特注品。紅い瞳のルーシュ様が同じ眼鏡をした場合、黄色が入らないので、多分紫に変化する筈。……紫の瞳。変装の意味がまるでないくらい珍しい色味になってしまう。炎は紅。水は蒼。土は黒。闇は紫。風は緑黄色が一応魔導師が持つ色になる。母方と父方で混ざるので、一概には言い切れないが。
私が自分なりの知識で、髪の色を変えたヘアーリングの説明をしている間、シリル様は真剣な表情で私の目をじっと見ていた。黄色の瞳といえば雷の魔導師だ。雷は殆ど顕現しない魔法。炎、水、風、土、の基礎となる四大エレメントではないから。
雷の魔法が顕現した人物といえば、この国で知らぬ者はいない。
建国語りでは、雷の魔導師と炎の魔導師は親友だ。彼らに上下はない。同じ村出身の双方にハイブリッド剣士。彼らは世の中を平定した後にこう言うのだ。国を二つに分けよう。一方はアクランド国、もう一方はエース国として。すると炎の魔導師は言い返す、俺たちは二人でやって来た。だからこそ独裁に陥ること無く秩序が保たれていた。この国は二つの国じゃない。一つの国を二人で支えているんだ。そこを忘れるな。そう言った炎の魔導師に雷の魔導師は言った。ああ、忘れないさ。何年経っても、例え俺が死んでも、意志は我が子の中に受け継がせよう。
アクランド王国は、大陸で一番の大国であり、魔導師の力によって守られた国。もしも国土が半分の大きさになっていたら、それは大国と言うのだろうか? もしも守りの盾から炎の魔導師が抜けていたら、魔導大国と言うのだろうか? 魔導師の力は国の力。大袈裟じゃなく一騎当千だ。個の栄華より平和を望んだのかもしれない。炎の魔導師という人は。








