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第39話 星が綺麗ですね?Ⅱ





 綺麗な星空を見て思うこと。

 曇りのない世界。


 深く悩んでいたからか、王妃陛下の威圧的な態度のせいか、思考の袋小路のような……。

 そんなところに迷い込んでしまった。


 たった一人の人が、計画した箱庭のように狭い未来。



 ――そんなもの



 その通りに動く必要などなかったのだ。

 自分の行動は自分で決められる。

 彼女は人質をとって命令しただけだ。

 命令を聞くか聞かないかの選択権は私にある。


 私は問答無用で牢に閉じ込められたわけではない。

 初めからいなかった人間のように扱われたわけじゃない。


 なぜ?


 それは王妃の権力を持ってしても、そのようなことが出来ないからだ。

 王妃陛下の独断と偏見でセイヤーズ令嬢に誣告の罪をきせることは出来ないし、そんなことをしては王太子妃に出来なくなるしで、意外に打てる手は少ないのかもしれない。


 殺すことが目的ならば、もう少し話は簡単なんだろうけど?

 息子の妃にするのが目的なのだから、脅すしかないのだ。


 しかし……。

 

 脅しというものは、元来弱者において効果覿面というか……。

 六大侯爵家相手となると、そもそもが脅しに屈しない。

 アクランド王国というのは王領と六つの大領地からなるのだが。

 大領地の領主は一目置かれている。

 それはそうだ。七賢者の末裔なわけだから。

 一領地が小国並みの大きさだし。



 王妃は私という当事者を踊らせるしかない。

 自分の描いたシナリオ通りに。



 ルーシュ様が言っていた権力で武装しろとはこのことなんだ。

 もし、シトリー伯爵令嬢のままだったら、命令一発だったかもしれない……。

 伯爵以下は侯爵家の間接領を治めているただの一貴族という……。



 養女効果すごいね?

 ここにきて。



 第五王子の人質問題は全然解決していないけれど、でもそれは昨日の今日だし、私が思いつきもしない方法があるかもしれない。


 明日、セイヤーズのタウンハウスに行く予定だから、その時伯父様に人払いをしてもらって話そう。勿論口止めつき。国王陛下に奏上するかしないかの対応を含めてしっかり相談しよう。そもそもこういうことに掛けては私よりはずっと立ち回りが上手いはず。  



 お父様。

 私も実家の権力を笠に着ることが出来そうです。



 第二王子殿下に婚約破棄された時、私の父であるシトリー伯爵は、自分の実家であるセイヤーズ家の名をこれでもかと利用したのだ。セイヤーズ領主でもあるまいに。



 シトリー領にはセイヤーズの後ろ盾がついている。とか。

 実際がっつり付いているわけなのですが。

 それにしても、そんなあからさまに虎の威を借る狐って。

 狐どころかリスくらいのもんですが……。

 セイヤーズが虎なのは間違い無い。



 私も。

 ここは一つ娘の私もお父様を見習って、虎の威を借りてなんとか持ち直さなくては。



「ルーシュ様、私、セイヤーズの伯父に難しい相談事を持ちかけようと思うのですが、迷惑でしょうか?」

「………迷惑なわけないだろ。寧ろ相談しない方が迷惑という」

「相談しない方が迷惑ですか?」

「それはそう。相談さえしてくれれば打てる手は幾通りもある。六大侯爵家序列二位のセイヤーズ家の当主であり、魔法大国アクランド王国魔法省次官。どれだけの権力を持っているか、ロレッタは想像出来ていないだろ?」



 想像出来ていません。

 なんせ貧乏伯爵令嬢ですっ。

 伯爵と侯爵、位階は一つしか違わないが、権力は何十倍も違う。

 ちなみに伯爵と子爵は場合によってそこまで違わない。普通に一、二倍くらい?



「明日、セイヤーズ家に行って相談します」

「そうだな。明日、俺が魔法省に出勤する時に送ってやる」

「え? ルーシュ様、自らですか?」

「そう。一人で行かせるのは危ないし、帰りも仕事帰りに寄るから、セイヤーズで待ってろ」

「え? 過保護??」



 確かに一人は怖いですけども。

 というか、この問題が解決するまで、一人で出掛けている時は後ろが気になる。

 というか、トラウマです。馬車に第五王子殿下が飛び出して来るのとか、後ろを取られることとか。



「過保護が何か?」

「……いや、御主人様に送って貰う侍女って……」


 聞いたことないよ? という。



「過保護くらいが丁度いいだろ?」

「…………」

「何も問題ないだろ?」

「…………」

「そもそもが主人と手を繋いでいるような侍女なのだから」



 そう言われると、繋ぎ合っていた手に意識が行く。

 御主人様の手をずっと握り続けてしまいました。

 結構必死に。



 パッと離そうとすると、ルーシュ様に握り返されてしまう。



「離さないんですか?」




 そう聞くとルーシュ様は黙ったまま返答なし。




「そういえば、私、執事のフィルさんから面白い話を聞いたのですよ?」

「……何?」

「実は使用人の間では、私がルーシュ様の婚約者候補の一人だと噂されているそうです。吃驚ですよね?」

「……別に吃驚するほどでは?」

「え? ルーシュ様は吃驚じゃない?」

「全然」

「え? 全然??」

「まったく」

「なぜ?」



 私がそう聞くと、ルーシュ様は上半身を起こしながら私を見る。



「だって、手を繋ぎ合ってるし」

「……これは勇気を請うタイプのものですよ?」

「そうだけどね」

「そうですよね?」

「そうだけど繋いでいるから」

「??」

「真夜中に星を見ながら手を繋いでいる」

「……?」

「………………星が綺麗だね」




ルーシュ様がそんな言葉を口にして笑う。




「――っ」




 私は自分の頬に熱が集まってゆくのが分かった。

 その台詞を今、言いますか!?

 こんな遣り取りをしたその後で!?








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