第38話 星が綺麗ですね?
『シルヴェスターやエース侯爵令息にはお茶会の内容は秘密よ?』
王妃陛下の声が、ハッキリと耳に残っている。
私は口止めをされた。
名指しでだ。
シリル様とルーシュ様には言ってくれるな。
言ったら困る。
計画が上手くいかない。
故に言うな。
「秘密にしてね」の直訳はこういった所なのだろう。
すると私の取るべき行動というのは自ずと決まってくる。
ルーシュ様の助言に従うとこうだ。
いの一番に喋る。
名指しで口止めをされた相手にこそぺらぺら喋る。
積極的に喋る。
秘密にしてしまっては相手の思うツボ。
ぺらぺらぺらぺら詳しく喋りつくせと。
よく考えてみれば、喋り倒したところで、二人に口止めさえしておけば、王妃にはバレないじゃないか? 側で聞いている訳ではあるまいし。私達、三人の間だけの秘密。
なんと合理的。
そもそもシリル様と第五王子というのはご兄弟で、同じ王宮に住んでいるわけだから、物理的な距離は結構近い。これ重要。一大事が起きた時に。
とにかく私は王妃陛下のいない時を見計らって、一度第五王子殿下に会いたい。
そうして体全身に隈なく魔力を通したい。
髪の毛とか髪の毛とか髪の毛に。
三人で知恵を絞れば良いのだ。
ルーシュ様を巻き込んでしまうのは大変申し訳ないのだが、シリル様は当事者なので遠慮する必要もない気がしてきた。私と同じ立場というかゴリゴリの当事者以外の何ものでもない。
私と無理矢理結婚させられるのだ。彼だって寝耳に水というか、どうしてそうなった!? というような状況だろうし、思うところもあるだろう。折角シングルになったわけだし、身軽な独身ライフを楽しみたいかもしれない。私だって婚約者がいなくなったばかり。まだまだまだまだ独身ライフを楽しみたい。有給休暇を頂いて、各領地の領主城巡りなんかをしてみたいのだ。一年に一回一領地に観光に行くとして、六年かかる。六年は独身でいたいじゃないか。
普段は侍女のお仕事をバリバリこなし、二十日ある有休は領地巡り。バリキャリというものを目指そう。そのためには降って湧いたような厄災を払わなくてはならない。従うことではなく、払うこと前提に考えなければ。
それにもしもだよ? もしももしももしももしもシリル様とうっかり結婚してしまっても事前にシリル様に詳しく奸計に嵌まったことを伝えておけば、見かけ倒し結婚という道もある。見かけだけ結婚。つまりは偽装。彼が戴冠する時に破棄して貰えばいい。何故なら行く行くは国の最高権力者国王なわけだ。
国王陛下が味方って凄くない?
いやでも待って。
実の母親じゃなくて、エース家の侍女に味方するもの?
味方してくれるよね?
だってアシュリに相対した時、アシュリを奸計に嵌めたことを怒っていたし。
『王妃は王の賢者に非ず』
とまで。
………私も王の賢者ではないけども。
もちろんそうですけども。
「ルーシュ様、なんだか星が綺麗に見えてきました」
「良かったな?」
「良かったです! 私、ちょっと思考が暗かったかなって反省しました」
「ほう。ちなみにアクランド王国の文学界で『星が綺麗ですね』とはどういう意味が知っているか」
「…………それはですね。この際置いておきましょう」
「知ってるんだ?」
「もちろんです。なんといっても私は文学マニアといいますが、オタクといいますが、まあまあレベルの本の虫ですからね。ちなみにそんな含んだ意味はありませんよ? 本当に星が綺麗という意味です」
「成る程」
「そんなことよりですね」
「流すか?」
「シリル様は私と王妃陛下どちらの味方をするか分かりますか?」
一応ルーシュ様に確認して置く。
一応だ。一応。
「…………お前はそれが分からないのか? 百パーセント通り越してロレッタの味方だ」
「百パーセント越えですか?」
「ああ。千でも万でも億でもいいが、迷わずお前の味方をする。そこは六賢者口を揃えて保証するだろう」
「そんなに?」
「そんなにだ」
「絶対?」
「疑う余地もない」
「そこまで?」
「考えるまでもない」
「何故ですか?」
「何故とか聞くか?」
「聞いては不味かったですか」
「別に不味くないが、見たままということだ」
「見たまま?」
「世界中を敵に回してもロレッタの味方だ。世界中を敵に回す程、不器用な男ではないがな」
「……………」
急に重たいレベルに。
「大袈裟ですね」
「残念ながら大袈裟じゃなく現実という……」
「産みの親ですよ?」
「産みの親より、ロレッタだろうな。なんの迷いもなく」
「ロレッタさんとやらは、私のことでオッケーですか?」
「お前以外誰がいるんだよ?」
「だってあんまりにも盛っていわれますもので」
「盛ってない。小盛りでもない」
「へー……」
「遠い目になってるぞ」
シリル様は確実に味方でいてくれるらしい。
百パーセントなのだそうです。
どっからその自信?








