【031】『お客様の開いた口が塞がりません』
「ルーシュ」
「なんだ?」
「僕は気を失っていないよね?」
「喋っているのだから、失ってはいないだろ?」
「………」
「おい、放心するなよ?」
「……いや、君と違って僕には耐性がないんだよ」
「いや、俺も別に耐性があるわけでは……お前は推し活をしていたんだろ? 詳しいんじゃないのか?」
「……詳しく有りたいと願っているが、聖女科とは如何せん距離が有り過ぎて……」
「まあ、それ以前に学年が違うからな」
「……そう学年が違うと授業が被らない」
「まったく被らなかったな」
「そうだよ、一個も被ってない。だから僕は不本意ながら遠くから目を凝らすように見ていただけだ」
「それくらいしか選択肢がないからな」
「もちろん権力で強引に機会を作ることは出来るが、それはエレガントとはいえない」
「確かにエレガントどころか格好悪い部類だな」
「格好悪いのは良くない」
「良くないな」
二人が謎の会話を続けている間に私はシリル様が落としてしまった眼鏡を拾いリフレッシュを掛ける。高価で大切なもののようだったので、侍女である私も大切にするのがセオリーだろう。
その小さな光に反応して二人の会話は止まってしまった。
「ルーシュ、今のはリフレッシュで間違いないか?」
「ああ、じっと見ていた訳じゃなかったが、多分そうだろう」
「……眼鏡にリフレッシュ?」
「まあ、聖女の十八番『浄化』だな。得意なのかも知れない」
「……だからって眼鏡を浄化?」
「客であるお前の物だから、綺麗にしてくれたのだろう」
「普通はどうする?」
「アルコール等で拭くのが普通だ」
「……僕はなんというか日常の小物にリフレッシュが掛かったのを初めて見たぞ」
「確かに浄化というのは、もっと厳かなタイミングで使うよな。騎士の剣とか戦いの中で掛けると効果絶大だ」
「そうそう。そういう此処ぞという時に聖女の浄化が入ると、士気が上がるので『取って置き』という位置にある魔法だ」
「サラッといったな」
「サラッと過ぎた……」
私から眼鏡を受け取ったシリル様は、やはり私を頭の天辺から足先まで何度も見ている。心のシャッターというものが発動しているのでしょうか?
「君、ちょっと君」
シリル様は動揺されておいでか、ずっと君君言っている。
「君は聖魔法と水魔法が専門だよね?」
「はい」
「じゃあ、なんで髪の色を変える魔法なんて」
「聖魔法は人体に精通した魔法ですからね! 行けるんです」
「行けるんですって……」
口をあんぐり開けられている。少し変則的な使い方をしてしまったので、驚かせてしまいましたか?








