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第20話 利潤への交差点。 

    





 セイヤーズ本妻の第三子の髪は、生まれ持っての純粋な蒼色だろうな。

 それこそ、水の魔導師総本山の本家の子供が持って生まれる色。

 灰髪というは例えだろうか? 純粋な蒼は色を抜くと濃度の薄い蒼になるだけで、灰色にはならない。


 髪飾りのリングを作るなら、純粋な蒼を添加すればよいだけの話なのか、もしくは濁りを入れられて灰髪になるのか分からない。見れば一発なのだが、生憎と私は見ていない。なので分からないのだが、父が帰ってきたら確認してみようか?


 でもさ?

 父、全然帰ってくる気配がないよね?

 弟のリエトを王立学園魔法科に上げるまでには………。

 なんて気の長い話をしていたが、そう考えると半年どころ一年近く会えないことになる。


 灰色魔術師の髪も私が作る色見本ファイルに載せたいが………。それはちょっと、さすがに無神経な気がする。しかも完全な証拠として残してしまう行為。……やめておこう。



 私は忘れかけていた、シーレパイを一切れ口に運ぶ。

 シーレパイというのはエース領南部で水揚げされる白身の魚のことなのだが、身がほっくりしていることと、純粋に食べられる部分が多いことで、大変重宝された魚で、エース侯爵家はこの魚の養殖に唯一成功しているのだ。ただ――王都まで運ぶとやっぱり距離があり輸送中に傷んでしまうので、塩漬けにして干した物を戻して使って作られたパイで――そこまで考えて、私は弾かれたように立ち上がる。


「シーレを冷凍するってどうですか!?」



 カトラリーを持って食べかけていたルーシュ様とシリル様が驚いて私を見る。

 はしたな過ぎましたね……。すみません。でも名案。絶対。


 エース侯爵家は最初のお得意様になりそうです!


 父が作る冷蔵ボックスにお魚を入れれば何日も保存が効くはず。

 なんせソフィリアの街で父が大量の蚕――

 そこまで考えて、あの中味は思い出すべきではないと今更ながらに反芻する。

 特に食事時に魔蟲は………。


 父はあの棺桶サイズの冷蔵ボックスを三個も量産していたのだ。

 きっと伯父様が魔石やら木箱を試験的に発注し始めている証拠。なんと早い対応なのだろう。伯父様の魔法能力は超一流だが、仕事というかそういったものの手腕も恐ろしく一流。魔導師としての腕に劣らないレベルだ。いや……なんというか、間近で見ていたのが父だけに、有能な当主というのを目の当たりにしたというか。


 シトリー領主名代に専売させると父がアシュリに確約していたから、セイヤーズの商会が預かれるようになるまで五年ある。この五年の確約はあの時点で伯父様にしてみれば「聞いてないっ」と言いそうな内容ではあるが、そうは言っても、名代は実の妹な訳だし、結婚祝い的なものとして、快く預けるんだろうな………。


 シトリー領が一瞬で富みそうです。

 やっぱり適材適所?

 同じ状況でも父なら借金地獄。伯父なら繁栄。

 人って………。


 叔母様が名代になって、アシュリ・エルズバーグと結婚した以上、私は目を血眼にしてシトリー領の借金と闘う必要はなくなったのかな? アリス商会として陰から助けていく間接的なものに変わったのかな? 水の魔術を教わるついでに、その辺りの事も色々教えて頂こう。明後日にはセイヤーズのタウンハウスに行く予定だ。その前に、ミシェルに会ったり、アリスターに会ったりしないと。


「ロレッタ? シーレを冷凍したいの?」


 シリル様が私の先程の思い付きに返事をして下さる。


「そうなのです。そうすればシーレパイの美味しさがですね、倍になるのではないかと?」

「確かに。獲れたてを冷凍すれば、あの蚕のような状態になるということだよね?」

「はい。そういった産業を持っている領には大きな需要があるのではと」


 シリル様はしれっと蚕の話をお食事中にされた。これは言質を取ったということだろうか? 食事中でもまったく躊躇なく蟲のお話をしても大丈夫だという。


 シリル様の火傷の治癒が終わって直ぐに、場のリフレッシュをかけたので、食堂自体は綺麗に浄化されている。黒ずみになった部分も綺麗に戻した。


 私は更に冷めてしまったスープに水の生活魔法を掛ける。これは聖魔法に比べるとずっと小さな魔法で、各自のお皿に盛られたスープの上に水色の小さな魔法陣が起動する。スープの中の水分の温度をあげるのだ。温度を下げるのは氷の魔導師の専売特許なのだが、水の魔導師も氷点下に入れなければ動かせる。そもそも大気中から水分を取り出すのは冷やしている訳だし、逆の要領で温めて蒸発させることも出来る。気体と液体の行き来は意外に出来るのだ。


 だがやり過ぎると干上がってしまい、ココナの実の成分だけが残ってしまう。

 だから美味しい温度七十度くらいはどうかな? 風味もあるし心地よい温かさではないだろうか?



「どうでしょうか? もう少し温めますか?」



 私が侍女スマイルでお二人に聞くと、シリル様は再度カトラリーを落としてしまい、ルーシュ様は口の中で何かもごもご言っています。


「……………今、三つの魔法陣を同時展開した? 同時だったよな? え?」


 とか言っております。

 スープは同時に温めましたよ?

 輪唱してもしかたないではないですか?


「え? 三つ? どうやるの? 同時起動? しかもこんな中途半端な温度に? え?」


 シリル様のお声も聞こえて来ました。


「先ずは一つ目の魔法陣を組んでから、それを複製コピーするのですよ? 三つをいちから組んでいるわけではありませんよ?」


 私は二人がもごもご話している内容に、丁寧に答えた。

 独り言みたいな言葉に、返事をするのって逆に失礼なのかな? どうなのかな?


「それよりシーレパイの話なのですが」


 私が先程の冷凍ボックスでお魚を凍らせる提案について話そうとすると、二人は、


「「多重起動(マルチタスク)をそんなこととか言われた?????」」



 とぼやいていて話が一向に進みません。


「そんな大袈裟なことではないのですよ? これは省エネの為に開発した小手先の技なのです」

「…………………………………小手先?」


 ルーシュ様が首を傾げて聞くので、私は元気いっぱいに頷いた。

 省エネ研究は私の専門のようなものですから。

 魔力が人並み以上に溢れているルーシュ様とシリル様には縁の無い話かもしれません。

 私はにこにこしながら答える。


「魔力の節約はですね、そんなに研究される方がいないので、意外に知られていませんよね?」



 節約と言えば貧乏ですから。

 貧乏伯爵令嬢だから、こうお金も魔力も切実だったのかもしれません。

 なので貴族は誰もマネしません。よね?






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